「スピ系男子はめんどくさい」vol.2 こんなに軽んじられている悲しい言葉『予防』其の1

スピ系男子歯科医の山田和宏先生。医療に携わる者として、人々の「健康のお世話係」となることを決め、「ゲノムドクター」になった話を「予防」という観点から数回に分けて書き綴ってくれます。「ゲノムドクターって何?」という方もぜひ続けてお読みください。

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8020。

歯医者は全員知っている数字。ハチマルニイマル。80歳で20本の自分の歯が残るように予防しましょう、という考え方。これは平成元年から厚生省(当時)と日本歯科医師会が推奨しているものだ。

私は歯医者になって20年経ったが、歯医者になりたての20年前にこの8020の達成率はわずか15%だったと報告されている。そして、現在はどうかというと、50%の人が達成しているとの報告もある(当初の目標は達成しているらしいが…)。

この調査の対象者が全国民でないため、この50%が本当かどうかは疑問が残るところだけれど、目標の必達のために数字をいじった可能性などをこの場で追求したいわけではない。

おそらく多くの歯医者が同意見だと思うが、現場で患者さんを診ていると、一定の割合で治療が必要な方が来るため、8020がどれくらい達成されているかは、我々歯医者はわからない。いや、わかり得ないというのが現実だ。歯が失われたときに、そのまま放置すると困るから歯医者に行くという人は多いだろうという一般的な想像を裏切り、意外と歯を失ってもそのまま放置している人も少なからずいる。果たして全国民となるとどうなのだろうか。調査対象者に、歯医者にちゃんと行っている人が多く含まれているならば、それはもちろんこの20年で8020の割合は増加しているとは予想できる。

私の医院は札幌市内の住宅街にあるため、下は0歳から上は100歳近くの方が来院される。開業当初から予防の大切さを訴え、定期検診の重要性をお話しているので、20本以上歯が残っている方もたくさん来院されている。しかし、何十年後かに5割が7、8割にまで到達するかについて、現場の多くの歯医者が「いや、それはむずかしい。」と思っている。つまり頭打ちが見えてきているように感じるのだ。

なぜかというと、歯(口腔)の健康は壊れてしまった部分を治して、歯磨きを続けて検診に行けば完璧というわけではなく、全身の健康状態に大きく左右されるからだ。(欧米では、従来の虫歯菌と甘いものの組み合わせにより虫歯が進行するという、日本で未だに通説とされている仕組みが、それほど重要な原因ではないかもしれないという新しい考え方が主流になってきている。例えば寝ている間の食いしばりや、口の中よりも腸内の環境が口腔内にも影響を大きく及ぼしている、などの考えが強く言われている。)

これは、歯科に限らず、多くの細分化された医科の全域において同様のことが言えると考える。そして、全身の健康状態を良くして差し上げるSuperな方法を我々は悲しいかな、持ってはいないのだ。もちろん、一助となるように研鑽し、情報を伝え、日々の診療に組み込み、そのような努力はしているつもりだ。他科との連携もしていると言いたいところだが、そこは制度の問題や、ぶっちゃけ互いのプライド(?)の問題でがっちりタッグを組んでいるとは言えない状況だ。

歯医者の言い訳として、削ったり埋めたりで時間が取られ、口の中をきれいにする話はしても全身の健康に寄与できるくらいの指導は難しいということがある。その人の食生活や家族歴、睡眠、運動、呼吸の状態などなど、挙げていたらキリがない項目を調査し、そこに対して適切なアドバイスができるほどの知識を持った歯医者もなかなか存在しないだろう。「健康」という大きなくくりで見ると、我々は実はほんの数%にしか貢献できていないのかもしれない。「医師」という名がつく以上、真の意味でできるだけ患者さんの命を救い、長く健康で人生を全うしていただけるようにこれからも努力していきたいものだ。

ちなみに「医者」の定義について知らべたところ、「医術を仕事にする専門家で、医師法の適用を受けて病気の診察や治療、投薬に当たる人のこと」とのこと。皮肉にもここくらいしか要求されていないらしい…。そして、「医療」について調べると、狭義には「診療(診察と治療)」であり、広義には「健康に関するお世話」とある。診療というスペシャルなところを追求する医師と、健康に関するお世話もする、浅くても広い視野で診る医師と両方が必要ということで、なんとなく納得できた。よし、やはり私はお世話係として生きていこう。

〜其の2へ続く

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書いた人/山田和宏
医療法人社団健生会の理事長/歯科医師 一般社団法人臨床ゲノム医療学会/ゲノムドクター 一般社団法人GenomD予防医学研究所/所長

歯科医師として活動する傍ら、健康長寿の方法を伝えるゲノムドクターとしても活躍。札幌市内に遺伝子調律サロン「Genom.D」を開設。量子科学やバイオレゾナンス療法を用いた「遺伝子レベルで若返る」サービスを提供。2021年から「睡眠LABO」の形でもサービスを提供。https://www.genom-d.com/

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