ブロックチェーンを使った未来のカタチVol.4~アナログ人間にも分かるように教えてもらいました  

ブロックチェーン

前回は、 川本栄介さん(ブロックチェーンのテックカンパニー「アトノイ」代表)に 、ブロックチェーンを用いた仕組み作りとそれが活用されることによって私たちの行動がどう変わっていくかについて話を聞きました。今回は、実際にブロックチェーンを用いている「NFT」などについて教えてもらいます。

編集部 / 前回、何かに特化したコミュニティーでブロックチェーンが導入されると、個人個人がフェアな状態で得意なことや好きなことで輝くことができ、経済だけでなく、社会の仕組みそのものを変えていくことができるという話で終わりました。実際にブロックチェーンを用いているものってあるのですか?

川本 / 最近話題になっている「NFT」がありますね。これは、ブロックチェーン上で所有者情報などを保証するもの。正式名称は、Non-Fungible Tokenと言い、その頭文字を取って「エヌエフティー」と呼ばれています。

編集部 / NFTもトークンなのですね。ちょくちょく耳にしますが、仕組みなどがイマイチよく分かりません。NFTで何十億も稼いだみたいな話も聞きますが…。

川本 / まあ、どうしてもそういう投機的な話が話題になりがちですが(苦笑)、それは一部の話で、本来の目的はそういうためにできたものではありません。これからはもっと本質的な方向へ向かっていくのではないかと僕は考えています。

これまでデジタルコンテンツは容易にコピーや改ざんができてしまいました。イラストや絵、映像など、デジタル化されたものは簡単にコピーされ、使い回されるのは仕方がないという風潮もありました。しかし、それぞれのデジタルデータにNFTを発行することで、誰が制作したものか、所有している人は誰かが分かるようになったのです。

今は、主にアート分野でのNFTの発行が多いのですが、文章や音楽、出版権利などにもNFTを付ける動きが出てきています。

編集部 / 例えば、私が描いた絵に対してNFTを発行すれば、その絵は私が描いたものであるという証明が確実にできるということですよね。

川本 / そうです。NFTのタイムスタンプで最初に描いたのが自分だと証明できます。確実に自分に帰属するのです。ブロックチェーンの特性上、コピーも改ざんもできませんから。さらにそれは誰でも見ることができます。

僕は、そのあとからの「繋がり」が大事だと考えています。NFTを発行することで、作品を手放したあとも誰が作ったものか、誰が所有していたかが記録されていきます。「繋がり」が証明されるということです。そのことで、作品の価値を世界中の人と共有できるというのが大きいと考えています。誰が所有していたかで作品の価値が上がるケースも出てくるでしょうし。

また、NFTは分割所有も可能です。例えば1億円の絵を1000人で所有すると、10万円でその絵のオーナーの1人になれるというわけです。価値を分かち合えるという点では、そこもNFTの面白いところだと思います。

編集部 / ちょっと話がずれてしまうかもですが…。知り合いで絵を描くことを生業としている方がいます。デジタル化が進み、便利になったのはいいけれど、個展に来た人が作品を写真に撮って、あちこちでアップしていて…という話を先日していました。最初はありがたかったそうですが、自分の名前、つまり作家の名前が書かれているわけでもなく、ただ絵の写真だけが勝手に出回っていて、著作権とかどうなっているのだろう…と。

川本 / そんな場合も、作品を描いたらすぐにNFTを付与すればいいと思いますよ。自分の作品であることを先に証明しておけば、絵を撮った写真が出回ったとしても、改ざんできないブロックチェーン上できちんと誰の作品かは証明されているわけですから。今後は、NFTで証明されているか否かで、作品の価値が変わっていくかもしれませんね。もちろん作品を売ったり買ったりもいいのですが、それだけでなく、作品にNFTをつけることで、作家の方たちの活動やセンス、ユニーク性なども証明していけると思います。

今、NFTを使って面白い取り組みをやろうとしています。あるブランドに10枚だけTシャツを作ってもらい、実際に販売します。そのうち1つにだけNFTを発行。そのNFTを持っているとTシャツを1枚だけ作る権利が与えられます。店ではもう買うことができないTシャツ製造の権利ですね。

編集部 / 1枚だけですか?

川本 / そうです。1枚作ったら、また次にそのNFTを誰かに譲ってもいいし、売ってもいいわけです。ファンにとってはたまらなく欲しいものでしょうし、アーティスト側からすれば、そのNFTの履歴を追いかけていけば、どんな人が手にしているかが分かるわけです。

どのようにこのNFTが動いていくかは分からないですが、とにかく「繋がる」という本質を理解してもらうことが大事だと思っています。今後はこういうユースケースを増やしていきたいですね。

編集部 / NFT以外でもブロックチェーンを使ったものって何かありますか?

川本 / 前回、HOW TOサイトを例に挙げて、トークンエコノミーの話をしたと思いますが、実際に導入すると発表したのが、「東京eスポーツゲート」https://red-esports.jp/という会社です。この会社は、東京タワーの下の部分にeスポーツが楽しめる「RED゜TOKYO TOWER」を作り、2022年の春にグランドオープンします。世界中の人から、東京=eスポーツといわれるような新しいカルチャーの発信地として、最新のゲームが楽しめるのはもちろん、eスポーツの大会や、ライブ、ファッションショーなども行います。

編集部 / そこにトークンが導入されるのですか?

川本 / はい、「RED゜トークンエコノミー・プロジェクト」として始動し、僕も関わっています。「RED゜TOKYO TOWER」と完全連動するデジタルプラットフォームとしてブロックチェーンを活用し、話題のメタバースも視野に入れた新たなeスポーツとエンタメの経済圏、つまりトークンエコノミーを作っていこうというものです。このプロジェクトで大事になるのが、この経済圏の中で活動するあらゆるステークホルダーの「アソビの熱量」です。それぞれのアクションを、ブロックチェーンに記録・収集し、個人へ帰属したその熱量や貢献に応じて公平な報酬を提供していきます。トークンを活用して特別な体験を楽しんだり、ユーザー同士で交流したりと、経済圏をユーザーの手によって醸成していく環境を作っていきます。トークンをどうやって、どこで手に入れたかも分かるので、履歴を追いかけていくことで、人と人が共通の価値基準で繋がることも可能になります。トークングラフというやつですね。NFTの話でもちょっと触れましたが、「繋がり」です。

編集部 / そのトークングラフって何ですか?

川本 / ソーシャルグラフって聞いたことありますか? SNSを中心にした人と人の繋がりを意味します。トークングラフというのは、トークンを介して人と人が繋がるということです。つまり、その人がどのようなトークンを持っているかで、その人の趣味嗜好も分かります。トークンは隠し事がない状態で、透明性があります。

これまでにも何度か話しましたが、SNSなどの登場で情報発信が自由にでき、コミュニケーションもできるようになりました。ところが、一方でGAFAなどの大手に個人の情報が今は管理されています。買い物をした履歴に合わせて、レコメンド商品がやたらと画面に登場したり。また、SNSのイイねがどこまで真正性のあるものかも疑問です。そこで、ソーシャルグラフに代わって、新しく登場した概念がトークングラフというわけです。ブロックチェーンは中央で管理する存在がないから、トークンを介して、本当の意味での人と人との繋がりが生まれます。トークンを介した繋がりが記録されていくことで、「選択」の機会も増えていきます。

編集部 / 選択の機会というのはどういう意味ですか?

川本 / 本当に欲しいものを買う、本当に欲しいサービスを探す。その際に多くの人は、ネットで検索をしますよね? その検索も一見簡単なようで、本当に欲しいものを探し当てるには結構時間も労力もかかります。そうこうしているうちにGAFAの都合の良いレコメンドが出てきて、そこで「まぁ、これでいいか」と購入してしまう。でも、トークングラフが広がると、真正性のある情報と繋がりによって、より簡単に本当に欲しいものの選択ができていくと思います。僕はこのトークングラフにAIの力をプラスすることで、さらに本当に必要なものを選びやすくなるのではないかと考えています。企業が売りたいものをレコメンドするのとは違い、ユーザーが能動的にアクションを起こすことができる最適なきっかけを与えると思います。

トークンが一般的になっていくと、トークンに記録された行動や熱量をもとに、最適な選択の機会、マッチングの機会が増えていきます。ビジネスシーンにおいても、どんな人と仕事をするかをマッチングしやすくなると思います。トークンを使った仕組みが一般大衆化され、インフラとして広がっていく日もそう遠くないような気がしています。

人は一人では生きていけません。人と人の繋がりを今のテクノロジー、透明性のあるブロックチェーンを使って、いかに健全に表現していくか。この新しい形の繋がり方がトークングラフです。人の本質を見極めていくものになると僕は思っています。

編集部 / トークンを発行するコミュニティーや団体の在り方も重要ですよね?

川本 / そうですね。本質的に意味を理解した上でのブロックチェーンの使い方が大事です。どういう目的でトークンを発行するのか、設計が重要。次回は、その辺りのことやトークンエコノミー、そこから見えてくる未来のことについて話をしましょうか。

編集部 / はい、よろしくお願いします。

つづく

◆川本さんが代表を務める株式会社アトノイ https://atonoy.co

編集・テキスト/徳積ナマコ
生活情報紙の編集、広告制作の会社勤めを経て、フリーランスに。ライフスタイル、クラフト、食、アート、映画、ドラマ、アウトドア、農業、健康、スピ…と、興味があるとなんでも首を突っ込む。人の人生ややりたいことの話を聞き、まとめるのも好物で、最近はプロフィールライターとしても活動。

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