最近、我が家の朝は早い。太陽が顔を出し始める4時頃には起きて、9時前には布団に入る。じつに健康的な生活だ。メロンの農作業がピークだから……というのはもちろんだが、本当のところ朝はもう少しゆっくり寝ていたい。それならなぜそんなに早起きなのかと言うと、5月にやってきた我が家の新メンバーに叩き起こされるからだ。
そう、採卵用の鶏を飼い始めた……のではなく(将来的には飼ってみたいと思っている)、我が家に息子が誕生したからである。
息子では呼びにくいので、ここではマックス(仮)と呼ぶことにしよう。ちなみにこのあだ名は某アクション映画から引用した訳ではない。我が子を「最高にかわいい」とか「マックスかわいい」などと、産後の語彙力を失った脳味噌で連呼するうちに私の中で定着した呼び名だ。
赤子とは不思議なもので、ただそこに生存しているだけで、見るものをトリップさせる不思議な魔力がある。さらに泣き声一つで、おんぶに抱っこにおっぱいにと、大人を意のままに操るのだから、まさにボスベイビーである。さして子ども好きではない私も、マックスが生まれたその日から虜になってしまった。
虜と言えば、高齢化が著しい我が町内でマックスを連れてでかけると、ちょっとしたアイドル気分を味わえる。スーパーのレジでは、「顔をみてもいいですか?」と店員さんに話しかけられ、ホームセンターでは「久々にこんな小さい赤ちゃん見たわぁ」とあやしてもらえる。マックスはそのたびに抱っこ紐の中からとびきりの笑顔を見せるものだから、周囲の大人もにやにやせざるを得ない。
東京で暮らしていた頃は、帰宅ラッシュの車内でぐずる子どもの声を聞くと「静かにしてほしい」と思ったし、山手線に乗るベビーカーを見れば「スペースを空けてほしい」と思ったこともあった。今思えば身勝手な話である。周囲に子どもを育てている人も少なかったので、なんとなく子育ては大変なものだと思い込んでいた気がする。そして、この時代に子育てをするのは窮屈なことなのではないかとも思っていた。
もちろん、子育てが「大変じゃない」といえば嘘になるが、今までになかった喜びを与えてくれることの方が多い。電車で見かけた親子も、ときには周囲の人に助けられたり、ときには周囲を笑顔にしたりしながら、毎日を過ごしていたのだろう。子どもを見守る温かい目は、気づかないだけで意外と近くにもあるものだ。
書いた人/小林麻衣子
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。
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