アートな小部屋・春宵一刻 vol.10 映画「ガーンジー島の読書会の秘密」

時は、1946年第二次世界大戦後の英国。作家である主人公ジュリエットの元に謎の一通の手紙が届く。差出人は戦時下、英国で唯一ドイツ占領下にあったガーンジー島に住む男。彼は”読書とポテトピールパイ”の一員。”読書とポテトピールパイ”とは、ガーンジー島で開催されていた読書会の名前だ。それは、戦時下の人たちの心のふれあいの場所だった。

主人公のジュリエット役は、美しく色香漂う女優リリー・ジェームス。映画『シンデレラ』でヒロインを演じたことで一躍有名になった。作品中の衣装が、なお一層彼女の美しさを引き立たせた。シンプルなブラウス・スカート・帽子、どれも英国人の気品を感じさせ、中でも社交界のシーンで着用したドレス姿は、まさに白眉。映画制作スタッフのセンスの高さを感じさせる一幕であった。

この作品の完成度を高めたのは、原作の素晴らしさだけではなかった。監督は『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』のマイク・ニューウェル。制作チームは『マリーゴールドホテルで会いましょう』のスタッフ達。錚々たるメンバーが揃った。

この作品は随所にさまざまな魅力が散りばめられているのだが、その大きなメッセージは

”本には人を呼び寄せる力がある”ということ。

物語は、終戦に喜び沸くロンドンに住むジュリエットが一冊の本をきっかけに、ガーンジー島に行くことで展開していく。ガーンジー島は本当に自然豊かで美しい島。フランスの詩人ヴィクトル・ユゴーが15年間亡命生活を送っていたことでも有名で、なんと傑作「レ・ミゼラブル」はこの島で執筆されたのだとか。詳細は実際に、映画をご覧いただくのが一番。旅行気分で映像を観るだけでも癒される光景だ。

この作品には「本」というツールの持つ可能性と読書会を通して繋がっていく人の心と想いが描かれている。それは、読書会が単なる読書のお披露目の場ではなく、どんな苦しい状況下であっても誰かに会いたい。誰かと語りたい。そして感動したいという、人が人として渇望する心のシンプルな動機そのものを表現している。

確かにこの作品はフィクションである。しかし、東日本大震災発生からわずか10日後、人々は書店に長蛇の列を作った。そのことを考えると実にリアルな作品だともいえる。その様子は「復興の書店」(稲泉連著・小学館)に描かれているので、一度ご覧いただければと思う。

そう、人はどんな時も活字や言葉を必要とするのだ。それは、言い換えるならば、言葉には力があり、誰かと語りたい、会いたいと思わせる力があるということと同義語なのではないだろうか。

映画の登場人物達は語る。

「僕らが、食べ物以上に欲しているのは人との繋がりや語らい友情。そして読書会は避難所、闇の世界で手に入れた精神の自由。新しい世界を照らすキャンドル。それが読書。人間らしさを取り戻す糧」(字幕翻訳・牧野琴子)だと。

このセリフに言葉のもつ煌めきを感じるのは私だけだろうか。

最後に、現在私は、志を共にする仲間と共に定期的にオンライン読書会「旅する書店」を開催している。この活動はまさにコロナ禍に生まれたもの。どこへも行けない封鎖された状況でも、旅するように全国・世界の人たちと「本」をもとに、オンライン上で言葉を交わし、繋がり、時には笑い、時には同じように心を痛め、分かち合いたいという思いから始まった活動である。

”本には人を呼び寄せる力がある”。そうあってほしいと心から願いつつ、今後も活動を広げていきたいと思っている。

「旅する書店」 https://www.facebook.com/groups/410052356758357/

(C)2018 STUDIOCANAL SAS

書いた人/Masae Kawaminami
夢は、「人生がアートな世界」になること。アートとは感動であり、五感に響くすべてがアートと捉え、それが欠けた人生は無味乾燥だと考える。自他ともに認める無類の本好きで、映画・音楽・舞台への造詣も深い。どんな環境にいても、アートが人の心の拠り所であってほしいと願い、コラムを執筆。北海道在住。

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