アートな小部屋・春宵一刻 VOL.13 外岡秀俊

一期一会という言葉がある。読んで字の如く、一生に一度だけの機会。生涯に一度限りであること。人生訓みたいなもので「人生は一期一会の連続だから一回きりの出会いを大切にしよう」みたいなことを読んだことがない人はいないと思う。しかしながら、この先、長く続くであろうご縁と信じていた出会いが、本当に一期一会になってしまった経験を持つ方は何人いるのだろう。

その出会いがあったのは、今からちょうど一年前。2021年11月21日のことだった。元朝日新聞ヨーロッパ支局長を務め、東京大学法学部在学中に小説『北帰行』を執筆。文藝賞を受賞した後も数々の作品を残されたジャーナリストであり作家の外岡秀俊さん。まさに、その方との初めての出会いが用意されていた日であった。

場所は数名を集めて行った札幌市内でのお話会。ことの発端は私が所属するNPO法人SDGs村北海道の企画で、北海道の素晴らしさをもっと世の中に広めるために「地産地読」をはじめてはどうかという発案からだった。北海道に縁のある作家にその場所へ行かなければ読めないものを作ってもらってはどうかということで、作家はぜひ外岡秀俊さんにお願いしようとなった。スタッフの知人に外岡さんのご親戚がいらっしゃったとこともあり、話はトントン拍子で進み、お話会が開催されることとなった。会の趣旨はありつつも、この機会に外岡さんを囲み、聞きたいことを聞いてみようというようなアットホームなものであった。

私個人としては格調高い『北帰行』という作品に感銘を受けていたので、そこへの興味が尽きなかった。けれど、外岡さんはフィクションだけでなく社会問題にも尽力されており、お話会の参加者にとってはジャーナリスト外岡さんへの興味が大半であったのかもしれない。

当日、初めてお目にかかった外岡さんは想像通り知的で上品な方だった。質問を捉える感度はさすがで、ポイントを絞り、時にはユーモアを含めつつ、ジャーナリストとして取材する際の取材される側への配慮や難しさを素人の私たちにもわかりやすく語ってくださった。

その日、私が聞きたかったことはただ一つ。「文学の意義」であった。昔、ある人に「文学なんていうものはなくても何も困らないもの」と言われたことがあった。昨今、文化庁の調べによると本を読まない人の数は47.5%だという。本というカテゴリーが広すぎることを加味すれば、文学と定義した場合、そのパーセンテージは想像以上に大きくなるのではないかと思う。つまり先の言葉は真実なのかもしれない。そう思うことが多くなっていた。

私自身は、こんなコラム書いているくらいだから、本を読むことも、文学もなくてはならないものであり、私を支える大きな根幹の一つである。けれど、それがなぜ?と問われたら、ひと言で説明できない自分がいた。その質問を外岡さんに投げかけた時、「文学は確かにすぐには役には立たないもかもしれない。しかし文学は時を超えて残っていく。そして本を読むことは、人間に問い続ける視点を与えるものであり、他人に寄り添う想像力を生み出すものであると思います」という力強い言葉をくださった。

その時の感動をどう表現したらいいのだろう。とにかく、私はその一言で燻っていた想いがすっと消え去っていくのを感じたのだ。文学はやはり生きている。そして、すぐには役に立たない=いらないものではないということ。これは多くの文化芸術にいえることだと思う。多くの観劇・舞台・アート。その多くはすぐに役に立たないかもしれない。けれど、時を超え残っていく。なぜならそれを人間が求めているから。 そんな答えをくれた外岡先生との永遠の別れがその数日後に用意されていたなんて。人生とは残酷で本当に小説みたいだ。さらにいえば、2017年に私は新聞のコラムで気になる記事を目にし、その記事を写真で保存していた。誰が書いたなんて気にも留めず残していた記事のタイトルは、「本の地産地消の時代」。執筆者は外岡秀俊とあった。たとえ時が流れ、いくつかのことは風化したとしても、その思想は時代を超えて私たちの胸に永遠に残っていく。4年後たまたま開いた写真の残像がそう教えてくれているようだ。不思議な機縁を感じつつ、限りない感謝と共にご冥福をお祈り致します。

札幌で行ったお話会での外岡さん

書いた人/Masae Kawaminami
夢は、「人生がアートな世界」になること。アートとは感動であり、五感に響くすべてがアートと捉え、それが欠けた人生は無味乾燥だと考える。自他ともに認める無類の本好きで、映画・音楽・舞台への造詣も深い。どんな環境にいても、アートが人の心の拠り所であってほしいと願い、コラムを執筆。北海道在住。

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