LGBTQをはじめ、皆が多様性を認め合える社会に。  【LINKな人Vol.13】廣川衣恵さん(北海道/スマイルオフィスなないろ代表)

「多様性社会において、知らないことはリスクでもあるんです」と話す「スマイルオフィスなないろ」代表の廣川衣恵さん。廣川さんは、LGBTQ に関する相談やコンサルを通じ、多様性を認め合える社会を目指していきたいと活動を行っています。お話を伺っていて痛感したのは、インターネットが普及し、これだけ情報があふれているにも関わらず、「知ろう」「分かろう」としなければ、私たちは大切なことを見落としているということでした。

今回は、廣川さんが「スマイルオフィスなないろ」を立ち上げ、活動を始めるまでのことやこれからのことを伺いました。

自分の「普通」は、すべての人にとっての「普通」ではない

包み込むような優しさのある明るい声で話す廣川さん。分かりやすく丁寧な話し方や温かな笑顔にも安心感を覚えます。

廣川さんは長年、札幌市の職員としてさまざまな部署を経験。定年前の 2 年間は男女共同参画課の課長として、政令指定都市で初となるLGBTパートナーシップ宣誓制度の設立に関わります。このときの経験がきっかけとなり、社会におけるマイノリティーについて学びはじめます。定年後は、経験を生かし非常勤講師として北海道教育大学岩見沢校で人権や倫理について教鞭を取るほか、認定こども園にも園長として 3 年ほど勤務 。現在は、「スマイルオフィスなないろ」を立ち上げ、大学で教えるほか、企業や団体へのダイバーシティ研修、LGBTQに関するコンサルなどを行っています。

「私たちの価値観というのは、周りの環境から影響を受けてできあがっているもの。自分にとっての『普通』『当たり前』が、みんなにも当てはまるものかどうかを今一度見直さなければならない時代に入っていると思います」と廣川さん。同調圧力が強い傾向にある日本の社会では、常々「普通」という言葉が飛び交っており、私たちはこの「普通」に縛られながら生きています。日々の会話でも、気が付くと「普通はね…」というセリフが口をつきがちです。

「ダイバーシティインクルージョンという言葉があらゆるところで使われるようになり、『普通』という言葉に縛られる社会から個性を活かす社会 へ移行する時期に来ていると思います。ダイバーシティという横文字を使うと、アメリカから入ってきた考え方と思われがちですが、ダイバーシティとは多様性という意味。日本は昔から多様性を持ちあわせた国だったのではないかと私は思います」

八百万の神と言うように、日本ではたくさんの神を崇めてきました。また、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字と文字も多様です。このように排除をするのではなく、すべてを受け入れる精神と、相手を思いやる想像力に長けた国民性を持ち合わせていました。ところが、戦後の教育によってこれらの良さはどんどん失われていったのです。

「多様性やダイバーシティという言葉を使う企業なども増えていますが、まずは一人ひとりが身近なところ、職場や家庭、学校で、目の前にいる人を尊重することが、本当の意味での多様性の第一歩だと思います」


パートナーシップ宣誓制度設立で知ったLGBTQの方たちのこと

廣川さんが、LGBTQ、性的マイノリティーの方たちと関わるようになったのは、男女共同参画課の課長を務めたときでした。

「LGBTパートナーシップ宣誓制度を作って欲しいという要望書を受けるまで、私自身、性的マイノリティーの方たちのことは何も知りませんでした。でも、まずは知ることが必要だと思い、当事者団体が開いた勉強会に参加して勉強をはじめてみたら、これは大変だ、これは少しでも早く制度を整えなければと思ったんです」

団体の集まりや学びを通じて知り合ったLGBTQの方たちがどれだけ苦しい思いを抱えて生きているかを目の当たりにしたほか、差別や偏見に心を痛め自死してしまった人たちがいることも知ったと言います。子どものころから自分がおかしいのかと思って誰にも相談できずひた隠しに生きてきた、就職が決まったのに心ない人によるアウティング(※)で内定が取り消された、思い切って職場でカミングアウトしたが周囲の理解が得られず転職を余儀なくされた、パートナーがいても法律で家族と認められないために亡くなったあとに共同で行っていた仕事や住まいを奪われた…など。ここに書ききれないほど、人生のあらゆる場面で悩み苦しんできた方たちの話を廣川さんは聞きました。
※アウティング(暴露)とは、誰かの性のあり方を本人の同意を得ずに第三者に伝えること



これから重要なのは、重なり合う部分を広がていくこと

2017 年のLGBTパートナーシップ宣誓制度創設は、政令指定都市初ということでマスコミに大きく取り上げられました。すると、札幌市だけの制度であるにも関わらず、全国から批判の電話やメール、FAX、葉書、手紙が廣川さんのいる男女平等参画課へ寄せられ、課長だった廣川さんはその対応に追われます。

「手紙だけで 900 通ほど届き、電話は 1 カ月ほどずっと鳴りっぱなしの状態でした。こんなに批判する人がいることに衝撃を受けましたね。中には言葉にすることがためらわれるような酷いことを書いたものもあり、人の命に対してこんな暴言を吐ける人たちが世の中にいるということがとてもショックでした。そして、性的マイノリティーの方たちがこんな酷いことをずっとされてきたのかと思うと辛くなりました。このとき、社会はマジョリティーに都合良く作られていると実感。自分もこれまで、数が少ないというだけでマイノリティーの方たちが生きにくいことに気付かずに生きてきたと思いました」

多数者であるマジョリティーは、気が付かないうちにその多数が暮らしやすいように社会づくりを進めてしまうことがままあります。「振り返ると、子どもの頃から学校では何でも多数決で決めることが当たり前でした。多いほうが勝ちという思考で私たちは育ってきたんですよね。少数の意見に思いを寄せるということがほとんどなかったと、反省も含めてそう思います」と廣川さん。もちろん、最終的にはどうするかを決定しなければなりませんが、互いの意見に耳を傾け、合意形成をしていくことが大事だと言います。

「そういう意味でも子どもの頃からの環境は大事。これからの学校の先生たちは、ファシリテートするという役割を担っていくことが重要だと感じています」

私たちは自分が思っている以上に狭い世界と価値観の中で生きています。人には知らないことを嫌う性質があるからこそ「知らないことはリスクである」という考えは、これからの時代を生きる子どもたちにも保護者の皆さんにも知っていてもらいたいものです。



誰もがマイノリティー属性になる可能性を持っている

マイノリティーについて考えたとき、廣川さんは自身もマイノリティーな属性にいた経験があると気付きます。

「2005 年ごろですね。40 代で昇進試験を受けて、初めて係長として異動した部署で酷いパワハラを受けたんです。異動した初日に上司に呼ばれ、子どもは何人いるかと聞かれました。息子が 3 人いますと答えると、3 人産んで育てているということは、その分の時間、男性よりも仕事をしていない、同じ年数を働いてきた男性と比べ明らかに劣ると言われました。会って 1 分も経っていないのに、子どもが 3 人いるだけで、仕事ができない、仕事をしていないと決めつけられてしまいました。役所は公平な組織だと思って働いていましたが、このときそうではないと気が付きました。結婚したら、出産したら、女性は仕事を辞めるのが当たり前という時代だったんですよね。振り返って考えてみると、あのとき私は組織の中のマイノリティーだったわけです。あの頃は産休育休の制度も整っていませんでした」

長男、次男を出産したときは育休制度がなく、産前産後8週間で復帰したという廣川さん。三男を出産したときにやっと育休制度が該当して休めたものの、給料はゼロだったため、半年ですぐに復帰したそう。

「女性の役割は家事と育児で、男性は仕事が中心という時代。産後復帰したときはヘロヘロになりながら、髪を振り乱して家事をしていました。でも、これからは女性もきちんと仕事をしていく時代だと考え、息子たちにもそれを見て育ってもらいたかったので、長男が 10 歳になったときに仕事中心にシフトチェンジしました。係長になるための試験を受けようと思ったのもそのころです」

こうした経験があったからこそ、廣川さんはマイノリティーの人たちの気持ちが誰よりも分かるのかもしれません。

「性的なことだけでなく、いつ自分がマイノリティーの属性を持つかは分からない。誰もがその可能性があることを考えて生きていかなければと思います」


互いを認め合えるダイバーインクルージョンな社会へ

65 歳の誕生日に開業届を出し、「スマイルオフィスなないろ」をスタート。「男女共同参画課でLGBTパートナーシップ宣誓制度の設立に携わったことがきっかけで、LGBTQ関連の研修や講座をさせてもらっていますが、誰もが誰かのアライ(ally)になれると思ったら、みんなが生きやすくなるだろうなと考えています」。

Ally とは、LGBTQの性的マイノリティーの人たちを理解し支援する存在のこと。法律が変わり、これからますますLGBTQについて理解が求められます。廣川さんは研修や講習の時間が取れない企業や団体などに向け、LGBTQについて分かりやすくまとめた教材を制作。多くの人たちにLGBTQについて知ってもらいたいと考えています。興味のある企業や団体、学校などの担当者の方はぜひ廣川さんへ問い合わせを。

5 人のお孫さんがいる廣川さん。最後に、「彼らに優しく温かい社会をバトンタッチしたいと願いながら活動をしています。多様性を認め合い、それぞれが安心して自分らしく力を発揮できるような社会、時代を築いていきたいですね。そのためにもやはり『知る』こと、『知ろうとする』ことが大切。これからも一人ひとりが大切な存在であると認められる、ダイバーシティインクルージョンを広めていきたいです」と語ってくれました。

スマイルオフィスなないろhttps://www.smile-nanairo.com

取材・文 徳積ナマコ https://tokutsumi.com/

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