【LINKな人】vol.4柳田ふみさん(北海道/ナチュラルスクールランチアクションさっぽろ代表)

柳田ふみさん

【LINKな人】

今回のLINKな人は、北海道札幌市で「エシカル給食」を推進する保護者の団体「ナチュラルスクールランチアクションさっぽろ」代表の柳田ふみさんです。2人の子どもの子育てをきっかけに、活動を始めたという柳田さん。パワフルに活動する彼女の原動力について聞きました。

人や社会、環境へのおもいやりを育む「エシカル給食」

日本で子ども時代を過ごした人なら、おそらくほとんどの人が食べたことがある「学校給食」。しかし、給食はどこで作られて、どのように提供されているのかを詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか。

実は、学校給食の仕組みは自治体によってさまざま。給食のメニューから食材の調達方法、調理施設、食器まで地域によって異なります。そんな給食の仕組みをもっとよいものにしようと活動している保護者たちがいます。柳田ふみさん(49)もその一人。2021年3月に北海道札幌市で「ナチュラルスクールランチアクション(以下、NSLA)さっぽろ」を立ち上げました。

NSLAは2019年に愛知県から始まった活動。各地に取り組みが広がり、現在全国で40団体、北海道内では7団体が活動しています。6人の中心メンバーのほか、その活動に賛同する「応援団」の約80人からなるNSLAさっぽろでは、「人や社会、環境へのおもいやり」をキーワードに、持続可能性に配慮した給食のことを「エシカル給食」と呼んでいます。エシカルとは、英語で「倫理的な」を意味する言葉。有機食品の導入や地産地消、アニマルウェルフェアなどに配慮した学校給食の実現に向けて日々活動しています。

ワインソムリエとして働いた20代

ソムリエ時代の柳田さんを取材した雑誌記事(写真右・『dancyu』1999年11月号)

「NSLAさっぽろの活動をしているのは、『子どもたちに安全なものを食べさせたい』という発想だけではないのです」と、柳田さん。その根底には、幼い頃からの自然環境や生態系への興味がありました。1972年に札幌市で生まれた柳田さんは、ネイチャーガイドを務める父親の影響もあり、当時の日本ではまだ広くは知られていなかった、有機食品や環境問題について次第に興味を持つようになりました。

高校卒業後は美術系の専門学校に通い、その後「自分のお店をつくりたい」と飲食の道へ。札幌市の欧風料理店で調理師として働いた後、縁あって大阪のイタリア料理店でワインに携わる仕事をすることに。その後、東京のレストランや大阪のワインバーなどで働きながらソムリエの資格も取得。その間も有機食品や環境問題への関心を持ち続け、語学留学でアメリカを訪れた際には有機農業が盛んな西海岸を訪れるなど、独学で学んでいました。そして28歳のときに札幌に戻り、ワインバーの店長として店の経営を任されるようになりました。

一方で、自身の給料よりも高額なワインを買売していることへ違和感を感じるようにも。次第に柳田さんは、ソムリエの仕事からワイン造りなど、ものづくりや食に興味が移り変わっていったと言います。ちょうどその頃今の夫と知り合い、結婚を機に退職。2人の子どもに恵まれました。

給食を「未来の選択肢」に

「エシカル給食紙芝居」でエシカル給食についてわかりやすく紹介

子育てを機に、子どもたちが将来生きていく社会や環境を改めて意識するようになった柳田さん。限られた人が訪れるワインバーとは異なり、給食は基本的にみんなが食べるもの。そこに惹かれるようになったと話します。

「給食って公共のものだから、みんなが食べるでしょう?だから、今までまるっきり『有機』や『オーガニック』という言葉を知らなかった人が知るきっかけになる場所として、すごく平等なのです」

 NSLAの活動を始めた愛知県の副島美貴さんによる活動説明会に参加したことで、札幌支部の立ち上げを決意します。理想とするのは、教育としての給食。毎食でなくても、たとえ年に1回でもいいから、有機食品や地場産の食材にふれて、子どもたちが食について考える機会を作りたい。それはただ給食を食べることにとどまりません。子どもたちに「知識」として環境保全型農業やSDGsとのつながりを知ってもらい、給食という「五感」を通じて食について学んでもらいたいと考えています。

「『買い物は投票だ』という考え方がありますが、給食という体験を通じて、子どもたちに有機農産物の購入やエシカル消費を将来の選択肢の一つとして知ってほしいです」

子どもたちには、負の遺産を残したくない

「りえ先生のみそ玉作りワークショップとミネラル講座」の参加者と柳田さん(右端)

NSLAさっぽろでは、「エシカル給食」実現のために、有機農産物の生産者や学校給食関係者、道や札幌市へのヒアリングを重ねています。今年の2月には、道が策定中の第4期北海道有機農業推進計画の素案にパブリックコメントを提出。また、親子向けに「りえ先生のみそ玉作りワークショップとミネラル講座」と題して、食育インストラクターの友人を講師に迎えたワークショップと座学講座を開催し、エシカル給食や食育への理解を深めてもらう活動をしています。

そんな柳田さんに、なにが活動の原動力となっているのかを尋ねると、意外な答えが返ってきました。

「この活動って本当に私の自己満足なのですよ(笑)。大それた新しいことをしようとは思っていなくて、ただ自分が納得できることをしたいだけなのです」

やさしい雰囲気で話す今の彼女からは想像もできませんが、昔は自分に対しても他人に対しても「すごく厳しかった」そう。何かうまくいかないことがあると、「自分の努力が足りないから」という考え方をしていたと言います。

「実は3回流産したんです。その経験をしたときに、自分じゃコントロールできないこともあると気付きました。そこで謙虚になれたのかな」

そして子育てをする中で、子どもたちの将来に「負の遺産を残したくない」という意識が芽生えてきました。

「自分が納得して、自分に恥ずかしくなく、そして自分が死ぬときに『とりあえずできることはやったよな』と思えるようになりたいのです」

そう話す柳田さんの夢は、エシカル給食の実現だけではありません。

「私個人が密かに考えているのは、耕作放棄地を活用した市民農園をつくること。そこで環境保全型農業や、保存食作りなど、自給自足の生活を体験できるコミュニティを作りたいですね」

その笑顔は、輝いて見えました。

取材を終えて…

農業に携わる人間として、持続可能性や環境問題に配慮した食料生産はとても興味深いテーマです。昨年農林水産省が決定した「みどりの食料システム戦略」では、耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大することが掲げられています。国はその一環として、学校給食などによる販路拡大なども視野に、有機農業推進を後押ししています。

一方、日本の有機農業の取り組み面積は2.37万ha(2018年)で、国内の耕地面積の約0.5%しかないのが現状です。こうした情報も、なかなか一般の消費者には届きにくいもの。インタビューの中で「教育としての給食」という言葉が出てきたときに、とても納得しました。柳田さんのような市民の活動を通じて、もっと将来の食や農について「考える機会」が広がることを願っています。そして私自身もその機会を提供できるようにしてきたいと感じた取材でした。

NSLAさっぽろについて

NSLAさっぽろでは3月17日(木)に札幌市で「尾形ゆうこ先生のオーガニック講座&みつろうラップワークショップ」を開催予定。また、夏には有機農産物の生産者の畑を訪問する企画も検討中。詳細はfacebookからご覧ください。

書いた人/小林麻衣子
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。

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