LINKな人 vol.7  「カンボジアの子どもたちのために挑戦は続く」岩田亮子さん(カンボジア・ノリア孤児院Hope of Children運営)

カンボジアの西部にあるバッタンバン州。隣国タイとの国境にも接し、首都プノンペンからは車で約7時間の場所にあります。カンボジアの第二の都市ともいわれるこのバッタンバンに、今回のLINKな人・岩田亮子さんが運営を行うノリア孤児院(Hope of Children)があります。孤児院に寄付などを通じて応援をしてくれる日本の方たちへの活動報告を兼ねて帰国されていた岩田さんにお話を伺いました。
※取材は12月前半で、すでに岩田さんはカンボジアへ戻られています

岩田亮子さん

「こんばんは」と明るい声で取材場所のカフェに現れた岩田さん。カンボジアのノリア孤児院の男の子たち4人も一緒です。2人はすでに孤児院を巣立ち、自立。あとの2人は高校生。「ほら、みんな自己紹介して」。笑顔の岩田さんに促され、恥ずかしそうに一人ずつ名前と、そして将来の夢を簡単に教えてくれました。ちょっとしたやり取りだけでも、岩田さんがみんなのお母さんなのだというのが伝わってきます。

札幌で活動報告会を行ったカフェトーンの前で。今回来日した子どもたちとトーンのオーナーの伊藤めぐさん

イー君は18歳。今回初めて日本に来ました。実兄が京都の自動車整備会社に技能実習生として働いており、今回の来日でお兄さんにも会うことができました。イー君もお兄さんと同じく車の整備士になるのが夢なのだそう。

みんなより少しお兄さんのピセイ君は、アニメーターとしてバッタンバンで働いています。絵を描くことが大好きな少年だったピセイ君は、2015年、広島に3カ月間滞在し、あらゆるアートを学び、最後には個展も開いたそう。今回は久しぶりの来日です。

ITエンジニアを目指しているボーレイ君は、福岡の大学に留学中。日本語も上手です。現在4年生で、春からは福岡に本社があるシステム会社で夢のエンジニアとして働くことが決まっています。

4人の中で一番年下のナチャー君は17歳。将来の夢は絵を描く仕事、画家になること。ナチャーくんの憧れは、絵を生業にしているピセイ君なのだそう。

「ほらほら、ちゃんと話して」と息子たちが照れながらも一生懸命話す姿を優しいまなざしで見つめる岩田さん。そんな彼女がカンボジアへ渡るきっかけは何だったのでしょうか。

札幌の支援者の皆さんと一緒に

福岡県出身の岩田さん。厳格な親の元で育ちますが、思い立ったらすぐ行動する上に、芯が強い子どもだったそうです。岩田さんが国際ボランティアに興味を持つきっかけは、19歳のときに見たテレビのドキュメント番組でした。アメリカ人の青年たちがアフリカで井戸を掘るという内容で、国際貢献という言葉をはじめて知ったのはこのときでした。

「自分もやりたい!国際貢献がしたい!と思って、父親に話したんです。でも、今のお前に何ができるんだと一蹴されました」

いつか国際貢献に携わるのだという想いを抱き、飛び出すような形で家を出て、横浜の大学へ進学。アルバイトをしながら学費を稼ぐ学生生活を送ります。大学の学費値上げがあったタイミングで、日本航空に就職が決まり、国際線のキャビンアテンダントに。世界中を飛び回る生活に入りますが、仕事の合間を縫って支援物資を送る活動など、できることを続けていました。

仕事は好きだったと話す岩田さん。それでも国際貢献への想いは募る一方で、45歳のときに思い切って早期退職します。

「JICAのシニアボランティアとしてどこかの国へ行こうと思っていたら、シニアボランティアとして求められる資格や経験、キャリアが私にはなかったんです。それで、日本語教師の資格を取ることにしました」

ところがそんな矢先、東京に住む父親の叔父が倒れ、岩田さんが介護をすることになります。東京で日本語教師や人材教育の仕事をする傍ら、介護を行う日々。現地へ行く国際貢献はもう無理かもしれない、日本にいながらできる支援をするしかないのかもしれないと考えていました。

「数年して、大叔父が亡くなったとき、あらためて自分のやりたいこと、やるべきことは何かを考えました。残りの人生、やはり現地で国際貢献をしたいと思いました」

カンボジアのノリア孤児院(HOC)の看板

HIVの孤児がいるところでボランティアをしたいと考えていた岩田さん。タイでもミャンマーでもよかったそうですが、カンボジアへ飛ぶことにします。2008年のことでした。

「ポルポトによる内戦はとうに終わっているはずなのに、今もなおそのときのネガティブな要素を引きずっているカンボジアのことが気になっていました。カンボジアの現状を自分の目で確かめたいと思いましたし、日本からの支援もきちんと届いているのか、活用されているのかも気になっていました。とりあえずどこの孤児院でボランティアに入るかの視察も含めて、カンボジアへ行きました」

新学期が始まり、通学前のノリア孤児院の子どもたち

数カ所見学し、最後に寄ったのがノリア孤児院でした。地元の寺院の敷地内にお坊さんが建てた小屋が孤児院でした。子どもたちの人数に対してスタッフの数が圧倒的に足りない状況でした。 「猫の手くらいの力にはなれるのではないかと思って、ここでボランティアに入ろうと決めました。翌年の夏には片道切符でカンボジアへ。日本航空を辞める時もそうでしたが、私は退路を断っていくタイプなんです」

2022年のクリスマスの様子。ケーキやプレゼントを手に嬉しそうな子供たちと岩田さん

強い決意でノリア孤児院の扉を叩いた岩田さん。初めて訪れたときよりも子どもたちの数は増えており、翌年には100人近くの子どもたちが暮らすという状況でした。

「これは収入を得なければ運営が難しいなと思いました。また、カンボジアでは寺院に女性が住み込みでいるというのも問題だと指摘がありまして、どこか住まいを見つけなければならない状況でした」

収入を得るため、日本語教師の資格を生かして日本語教室を開こうと地元の学校関係に直談判。とあるNGO学校が賛同してくれ、さらにその学校のオーナーがホテルも経営していると分かり、無給の代わりにホテルの賃貸料を格安にしてもらうことになります。日本語を教えながら、孤児院に通うという二足のわらじ活動が始まります。その後、日本語教師をしたいという日本人の女性と一緒に新しくできたアパートをルームシェアするなど、岩田さんのカンボジアでの暮らしもしっかり定着。

ノリアの子どもたちはみんな元気いっぱい!

ノリア孤児院には、学びたくても学べない子たちがたくさんいました。岩田さんは、孤児院にいる子どもたちが自分の力で生きていくためにはまず教育が大切だと考えています。学ぶ機会ができると、子どもたちは夢を持つようになります。そしてもう一つ、自立して生きていくためのスキルを身に着ける必要があります。

「学ぶ機会やスキルを得る機会を与え、子どもたちが抱く夢を叶えるためのサポートをするのが私の使命だと思っています」

試行錯誤しながら、子どもたちと一緒にはじめた田んぼ作り
努力の甲斐あってお米が収穫できるようになりました

カンボジアへ渡ってから13年、子どもたちの暮らしを支えながら、食べていくために必要な田んぼや畑を作るなど、日々奮闘してきました。2015年には、自分たちの作った自然栽培の野菜を使った料理を提供するカフェもオープン。孤児院出身の子がリーダーとなり、孤児院にいる子どもたちで運営しています。

「カフェを開くのが夢だった子たちは、3カ月間、日本に滞在して、実際にカフェで調理やサービスを学ばせてもらいました」

Café HOCでは、自然栽培の野菜を使ったメニューなどを楽しめます

岩田さんは、孤児院の運営、継続のため、日本にいる友人知人に協力を得て、寄付など支援の協力を依頼。岩田さんの想いに賛同している有志による「岩田亮子さんを応援する会」も立ち上がり、日本でできる支援を行っています。カフェオープンに関する協力もこうした支援者の協力があって実現しました。また、今回のように、毎年孤児院の子どもたちの中から数名が岩田さんと一緒に来日し、支援者への報告会や新たな支援の呼びかけなどを行っています。

「私がはじめて孤児院を訪れたときに小さかった子たちも大きくなり、それぞれ夢を実現するために頑張っています。ピセイのように実際に夢を叶えている子もいますし、ボーレイのように頑張って勉強して夢を掴もうとしている子もいます。これは、日本の支援者の皆さんのお力添えと、うちの子たちの努力の結果なんです」

インタビュー中、「うちの子たち」という言葉を何度も用いていた岩田さん。期間限定のボランティアではなく、退路を断って、そこに根を張り、共に生きているからこその「うちの子たち」であることが伝わってきます。そして、本当に子どもたちのことを深い愛情で支えているのが分かります。

カンボジアは4月がお正月ですが、大晦日には日本風にみんなでお餅つきもしました
2023年の元日のノリア孤児院

「カンボジアにはこれといった産業がないんです。だから、職業訓練学校のようなプラットホームを作れないだろうかと考えています。子どもたちが自立できるよう、仕事に直結するスキルなどを教えるような場所。そして、そこでスキルやノウハウを教えてくれる方を募集しています。カンボジアで教えてもいいよという方がいたらぜひ!」

子どもたちのため。その想いだけで走る続ける岩田さんの挑戦はまだまだ続きます。孤児院の支援、岩田さんの応援をしたいという方は下記Facebookから連絡を。

https://www.facebook.com/noriakojiin/

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