先日、軽トラを買った。
道民にしてはめずらしく、車1台持ちだった我が家。そもそも、今年の春先までは車を所有してすらいなかったのだが、この秋ついに2台目がやってきた。農作業用の軽トラである。
軽トラと言えば農家の必須アイテムであり、3種の神器の一つ(他の2つはなにか思い浮かばないけれど)だ。収穫したメロンを乗せたり、ビニールハウスのパイプを運んだり、荷台の上で昼寝をしたりと大活躍のアイテムである。
最近はカラーバリエーションも豊富で、オレンジや黒、カーキなどのポップなカラーリングの軽トラも登場している。若い人ほどこだわりの軽トラに乗っていることも多いのだが、どこに出かけたのか一目でわかってしまうのがデメリットである。そう、ここは人口7000の田舎町。「〇〇さん、昨日あそこにいたでしょ」と話しかけられてしまうのは必然であり、車の色から個人情報がダダ漏れする場所なのである。そのため保守的な我が家は、スズキのキャリイ(白)を購入することにした。
さて、納車したての軽トラで何をするのかと言えば、来年に向けた畑の準備である。冬に向けてビニールハウスのビニールを片付け、中の土をトラクターで耕す。このとき畑に投入する肥料や資材などを軽トラに乗せて運ぶのだ。
今年お世話になった指導農家のもとを卒業して、この秋から町の所有する実践農場に移った。同じ農業研修生のAさんと一緒に、来年の春からはこの農場で、自分たちの手でメロンを栽培することになる。そのための畑の冬支度を、雪が降るまでに終わらせないといけないのだ。
そんなある日。
畑仕事が終わって、さあ帰ろうと思ったら軽トラの助手席のドアが開かない。ドアの鍵を閉めた記憶がないはずなのに。さては、夫がロックしたのだろうか。運転席に先に乗っていた夫に、中から開けてと催促したら、慌てて降りてきてこう言った。
「これうちの車じゃなかった」
ああ、やってしまった。
これはうちの車によく似ているけれど、Aさんの軽トラだ。しかも近くに居るAさんが苦笑いしながらこちらを見ているではないか。他人の車に押し入ろうとする車上荒らしみたいになってしまった。慌てて謝って、自分の軽トラで逃げるように帰ってきてしまった。恥ずかしすぎる。
というのも、研修生はほぼ同じタイミングで軽トラを購入するのだが、Aさんと車種も色もど被りしてしまったのだ。新しい白の軽トラが2台並んでいたら、あとは何が起きるのか想像に難くない。
自分の軽トラに目印をつけるという、冬の宿題がもう一つできた。
書いた人/小林麻衣子
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。
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