【LINKな人】vol.1田那部由美さん(愛媛/「すべてのはじまり あま」代表)

【LINKな人】

全国各地に、地球や未来の子どもたちのことを考えた活動をしている人がいます。サステナブルな暮らし方や働き方をしている人がいます。アプローチや実践の仕方はそれぞれですが、根っこにある想いはLINK!読者ときっと近いものがあるはず。このコーナーではそんな人たちを紹介していきます。
記念すべき第1回は、愛媛県松山市でコミュニティースペース「すべてのはじまり あま」を運営している田那部由美さんです。

ピースしているのが今回の主人公、田那部由美さん

愛媛県松山市の堀江というところに、「すべてのはじまり あま」があります。あまは、古民家を改装して作られたコミュニティスペース。広い庭を出ると、目の前には美しい海が広がるステキな場所です。イベントをすることも、泊まることもできます。ここを作ったのが、田那部由美さん。あまができるまでの話、今年立ち上げた一般社団法人GUILDのことについてお話を聞きました。

ある絵本との衝撃的な出合いで人生が180度変わる

由美さんは高知県出身。子どものころは、放課後に友達と遊ぶことを知らなかったと笑うほど、習い事のスケジュールがびっちり。厳しい両親のもと、「本当は自信がないのに、何でも自分でやらなければならないと思っていたから、必死で頑張っていました。そつなくこなせる器用さは身につきましたね」と話します。周りとトラブルは起こさないけれど、合わせることが苦手、窮屈さを感じていました。20歳で駆け落ちして、結婚。松山で3人の子どもを育てながら暮らし、「人と関わるのも苦手で、ひきこもり気味な生活を送っていました」と振り返ります。

そんな由美さんに大きな転機が訪れたのは50歳の誕生日。小学生の坪田愛華ちゃんが描いた「地球の秘密」という絵本を読み、ひざから崩れ落ちるほどの衝撃を受けます。環境問題をテーマにした作品で、愛華ちゃんがこれを描き上げてすぐに小脳出血で亡くなったと知ると、「自分の薄っぺらい人生をぶったたかれた気がしました。これはもう、ひきこもっている場合じゃない!」と行動を起こすことにします。

自分の殻を破るきっかけになった1人旅

まずは1人で行動してみよう。自分の周りに築き上げていた壁を自ら壊しはじめた由美さんは、1人旅を決行。「行き先はね、道後温泉、しかも日帰り旅行(笑)」。そのときの由美さんにとっては近くの道後温泉に1人で行くだけでも大きな冒険だったのです。「知らない人に話しかけたり、話しかけられたりするなんて、これまでの人生ではあり得ないことでした。どこから来たの?と聞かれて、すぐそことは言えなくて、高知から来ました~とか言って(笑)」。知らない人と話す楽しさを知った由美さんは、次に海外への1人旅を計画します。

選んだ先はハワイ島。ここでの出会いがさらに由美さんを突き動かすきっかけとなります。宿泊したゲストハウスのオーナー・ニック加藤さんは、元ヒッピーという日本人。「地球環境問題などに取り組む自然派の方なのだけれど、そのナチュラルな暮らし方に衝撃を受けたの。早起きをして、泊っている私のためにコーヒーを淹れてくれ、豊かな自然の中で鳥のさえずりを聞きながら一緒に朝食を食べる。それだけのことなのにとても感動して、日本でこういう生活がしたい! こういう場所、コミュニティーを作りたい!と思いました」。

思わず早起きしたくなるあまの朝。由美さんも早起きです

生まれ変わることができる場所「あま」

帰国後、早速何かを始めようと動き出しますが、「なにせ引きこもりだったから、何をどうしていいのか分からなくて、パーマカルチャーの実践をしながらコミュニティーを作っている共生革命家・ソーヤー海君の勉強会に参加することにしました」。それと同時にラジオ体操やゴミ拾いをしていた海の近くで、気になる古い家を見つけます。「ここにコミュニティーを作りたいって思いました。建物の横の木の間に観音様が現れて、家を差し出されたような感じに見えて」。すぐに法務局へ行き、持ち主を調べました。そして渋谷の文具店で、すてきな便せんを購入し、想いを綴ります。「これまた不思議なのだけれど、この便せんで書いたら想いが天に通ずるって思えたのです」。ポストに入れる前には、ハワイ島で出会った女の子と一緒にポストの前で祈りの舞まで踊ったそう。「おもしろいでしょ」と楽しそうに笑う由美さん。想いはきちんと届き、結局持ち主の方が快く貸してくれることになりました。いよいよ「あま」が始まります。

あまの庭。右に写っているのが快く貸してくださったという大家さん

大家さんから建物は自由に直して使っていいと言われたので、リフォームすることにしましたが、古い家をどうリフォームすればいいか分からずにいた由美さん。できるところを自分でやろうと思っていましたが、天井部分をどうしたものか考えあぐねているとき、たまたま近くにいた建築関係者のようないで立ちの男性を見つけます。「これまでなんでもそつなく自分でやってきたから、人に何かを頼んだり、人と何かをやるという経験が実はなくて…(苦笑)。とにかく分からないけど、聞いてみるだけ聞いてみようと思って、思い切って声をかけてみました」。すると、その方は型枠大工の仕事をしている人で、建物を見てくれることになり、結局作業もしてくれたそう。「帰るときにね、その方が『世の中の人の役に何か立ちたいと思っていたところだったから、声をかけてくれてありがとう。できることは何でもやるからまた頼んで』と言ってくれたのです。こちらがお願いしているのに逆に感謝されてしまって(笑)」。何でも自分でやってきた由美さんは、この出来事が目からウロコだったそう。「人に頼らなかったことで、人にチャンスを与えてこなかったのだと気付かされました」。それ以来、1人で抱え込まずに人に頼ろうと決心。途端にたくさんの人たちが手伝いに来てくれるようになりました。

あまの中の様子

こうして誕生したのが「すべてのはじまり あま」です。オープンのときには、由美さんの念願だった餅つきを行いました。子どもから大人まで大勢の人が集まり、とても賑やかだったそう。その後、口コミで日本全国、さらには海外からもたくさんの人たちが「あま」を訪れるようになります。「でもね、人が来れば来るほど、引きこもりの癖が出てきて、毎年のように『辞める』と言ってしまうのです…」と苦笑。それでも、「あまに来ると、癒やされるとか、人生が変わったなんて言ってくれる人がたくさんいて嬉しいなと思います」と優しい表情で語ります。「あま」という名前には、「天」「雨」「アマテラスオオミカミ」といった言葉の意味や響きも込められています。「何か悲しいことがあっても、怒りを抱えていても、ここへ来て、すべてを脱ぎ捨て、リセットすればいい。心地よい状態でまたここからスタートしてもらえたらと思っています」。

みんなでリフォームしたあま。温かみがあります

いいことをしてるのに、苦しい。そんな世の中を変えたい

「あま」を訪れるたくさんの人たちと交流をしていく中で、由美さんはあることに気づきます。「地球や社会にいいことをしようと頑張っている人や、そういう想いを持って活動しているやさしい人って、みんなお金がないのです」。たとえば、志を持ってオーガニック農業を実践している若者が、それだけでは食べていくことができずに別のアルバイトを掛け持ちして無理をし、苦しそうにしているなど…。特に今年に入ってからは、そういう人たちが好きなことだけで暮らせる社会にできないだろうかと考えるように。「そこで、まずは自分たちのコミュニティーの中から変えていこうと一般社団法人を立ち上げました」。

今年2月からスタートした「一般社団法人GUILD」は、その目的を自然と人の「いのち」を育むことに貢献し、それを後世に継承していくことと定めました。事業内容には、環境保全の活動や自然農法、自然エネルギー、循環型社会の勉強会の開催、オーガニック野菜を使った給食の普及、竹やオーガニックの食材を使った商品開発と販売などが盛り込まれています。その定款に書かれている内容は、LINK!読者ならばワクワクするようなものばかりのはず。由美さんも「すごくいいでしょ!」と満面の笑み。

ギルドビールのチラシ

GULIDの第一弾商品が、クラフトビール。栽培中に農薬や肥料を使わず、丁寧に育てた地元のオーガニックいよかんを使用した香り高いビールです。「1本の価格は1400円と決して安くはありません。それでも、作り手の想いを知り、多くの方が手に取り、そして美味しいね、応援するよと言ってくれました」。

人の命と自然を守り、みんなのやりたいことを応援する「GUILD」

やりたいことをやって暮らしていける社会に。「お金になるからやるとか、お金にならないからやらないではなく、人生を楽しむためにお金に働いてもらえばいいと思っています。お金や経済の仕組みも変えていきたいです」と由美さん。さらに、みんながやりたいことを声に出せるような組織が大事だと考え、「自然や人を大切にしながら、GUILDはみんなのやりたいという想いを応援していく組織です」ときっぱり。こういう集まりが各地に誕生し、それが繋がり合っていけば、社会も変わっていくとも話します。

由美さんのお孫さんたち。GUILDビールの宣伝をしています笑

やりたい!やろう!と思ったらすぐに行動に移す由美さん。GUILDはまだ始まったばかりですが、「心地よい暮らしをするため、楽しく暮らすためのみんなの学びの場になってほしいと思っています。商品を作って販売することももちろんだけど、いろいろな体験ができる場にもしていきたいです。私は10人の孫がいるのだけれど、この子たちが大きくなって、世界のどこかで出会った人にGUILDで遊んだ楽しい思い出を語って、その人も『GUILDで遊んだことある!』ってなったら、とっても面白いでしょ? GUILDがそんな風にたくさんの人の共通の楽しい思い出の場になればと思っています」と、最後に想いを語ってくれました。

取材を終えて…

とにかく楽しみながら、遊び心を持って行動する。そしていつも自分の心に正直で、自分のかわいがり方をよく分かっている。私から見た由美さんの印象です。その純粋な想いと行動は、どんどん大きな波を作っていくようにも感じられました。GUILDの今後の活動も楽しみです。クラフトビールを飲みましたが、すっきり飲みやすくて美味しいのはもちろん、誰がどんな想いで作ったかを思い浮かべながら飲むことで、味わいに深みが増すと感じました。商品のストーリーにこそ価値がある。それを分かって買い物をする人が増えていくといいなと思いました。

書いた人/徳積ナマコ
生活情報紙の編集、広告制作の会社勤めを経て、フリーランスに。ライフスタイル、クラフト、食、アート、映画、ドラマ、アウトドア、農業、健康、スピ…と、興味があるとなんでも首を突っ込む。人の人生ややりたいことの話を聞き、まとめるのも好物で、最近はプロフィールライターとしても活動。

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  1. ナマコさんに取材依頼を受けた時私の人生なんて記事になるのかなぁ?と思っていたけどさすがです!
    私とのおしゃべりをここまで文章にしていただけるとは。
    ありがとうございます♫

    沢山の人の人生を今後とも楽しみに読ませていただきますのでどうか取材がんばってくださいませー。

    • こちらこそ、早朝よりご協力ありがとうございました!楽しい時間でした!今後ともよろしくお願いします!

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