いよいよ本格的な冬がやってきた。北海道に移住してきて初めての冬。神奈川県生まれ神奈川県育ちの私は、雪のある冬を経験したことがない。雪が降り積もる冬はいったいどんなに寒いのだろうかと、秋頃から恐れ慄いていた。
「道民は暖房ガンガンに効かせて、家の中は薄着だから大丈夫」
「雪が降ったらむしろ暖かいよ」
などと移住者の先輩からは聞いていたけれど、内心「いやそんな訳ないでしょう」と思っていた。
しかし、暖かいのである。家の中が。
北海道の住宅の断熱性能たるや、うすい壁から隙間風が入ってくる関東の家と比べ物にならない。雪がしんしんと降っていても、二重サッシのお陰で窓から外を眺めることができる。その有り難さを道民のみなさんにはぜひ知ってほしい。しかも我が家は集合住宅なので、建物自体が暖かい。さらに暖房をつけようものなら、薄着でアイスを食べたくなる気持ちもわかるというものだ。
これなら、北国の冬もなんとかやっていけそう…と思っていたのだが、恐ろしいのは寒さではなかった。
冬の北海道にも慣れてきたころ、一枚の紙が我が家に届いた。
検針票である。
ガス、電気、灯油代が軒並み上がっているではないか。しかも夏の2倍くらいの値段に。冬の寒さは財布に堪えるということなのか。
つい1ヶ月ほど前、ガソリン価格が10週連続で高騰したことがニュースになっていたのは記憶に新しいだろう。そう、寒さよりもガソリン・灯油代が恐ろしいのである。
しかも農家という職業は、原油価格の高騰に左右される仕事なのだ。
ビニールハウスをボイラーで温めて農作物を栽培する施設園芸は、言うまでもない。さらに、ハウスを覆うビニールやマルチに使うポリエチレンなど、石油を原料とする製品も値上げしていることは、世間一般には広く知られていない。農業資材メーカーが、製品を5〜10%値上げすることに決定したニュースは新規就農をめざすわたしたちの財布に大打撃を与えている。さらに、農業用のパイプや肥料の価格も今年に入って値上げ、さらに農業機械も値上げ…と2020年は値上げの嵐だった。
一方で、野菜などの農作物の価格は、直販をしていない限り市場原理で決まることになる。いくら原価が上がったとしても、価格転嫁できないのが農家の苦しいところだ。
だからみなさんにお願いしたいのは、農作物を適正価格で買ってほしいということ。一消費者としては、なるべく安くておいしいものを買いたくなるところだけれど、「普通の値段」のものもしっかりと買い支えてほしい。高いものじゃなくていいから、いつも食べているあの商品をいつもどおりに買ってほしい。
暖かい正月の食卓を囲むときに、ちょっとだけそのことを思い出してもらえると嬉しい。
それでは、みなさんよいお年を。
書いた人/小林麻衣子
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。
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