早春と呼ぶにはまだ雪深い3月の北海道。
ビニールハウスの中で、わたしたちは汗だくになりながら農作業をしていた。外は凍えるほど寒いのに、中に入ると暖かい。いや、むしろ暑い。ここは本当に3月の北海道なの?と疑ってしまうようなハウスの暖かさを知ったのも移住してからのこと。
わたしたち夫婦が北海道安平町に移住してきたのは今年3月。特産品のメロンを育てるべく、春から地元農家さんのもとで農業研修に取り組んでいる。
このあたりで栽培されているのは、あざやかなオレンジ色の果肉で、とろけるような甘さとみずみずしい味わいが特徴のアサヒメロン。北海道で親しまれている夏の味覚だ。
そんなメロン栽培が始まるのは、まだ寒さ厳しい2月。ビニールを2重に重ねて厳重に保温したハウスの中で種まきが始まる。
冒頭、大汗をかきながらしていたのは定植の作業。種を撒いてから約1か月、すくすくと育った苗をビニールハウスの中に植える。ポットいっぱいに根が生えた苗はけっこうな重さ。でも、芽をちょっと触っただけで折れてしまうこともあるため、注意しながら作業をする。これをハウスの中に約360個植えるのだから、体力勝負だ。
きっかけはテレワーク
東京23区(しかも山手線の内側)に住んでいたわたしたちが、北海道に移住し、農業を始めようと思い立ったのは、ちょうど1年前。コロナ禍で始まったテレワークがきっかけだ。
最初の緊急事態宣言が出された昨年4月、当時会社員だった夫は完全在宅に切り替わり、それから毎日家で仕事をする日々に。わたしは都内のオフィスに出勤することが多かったけれど、二人で在宅勤務という日も。2DKの手狭なマンションで仕事をするうちに、だんだんと息が詰まっていくような感覚になっていった。
同僚や取引先とのコミュニケーションも画面越しか電話越し。「もしこの先ずっとこの働き方になるのだとしたら、これは本当に自分がやりたい仕事なのか……?」そんな思いがよぎるなか、ふと思いたったのが農業だ。
農業関連の出版社に勤めていたわたしは、かねてから移住をしたい!あわよくば農業を仕事にしたい!と考えていた。そこで夫を誘って、近くで開催されていた新規就農フェアに参加。その場で安平町と出会うことに。そこから、とんとん拍子で話は進み、気付いたら1年後には北海道の地に降り立っていた。
わたしたちがやってきたのと同じ時期、安平町にはハクチョウが渡ってくる。農作業をしていると、ガーガーとあまりかわいらしくない鳴き声が静かな畑に響く。
「ハクチョウの鳴き声を聞いたら、これから忙しくなるよ」
と研修先の農家さんが教えてくれた。ここではハクチョウの訪れは農繁期の訪れを意味するらしい。いよいよこれからが本番だ。安平町での暮らしや農業のこと、北海道の自然のこと。これから少しずつ紹介していきたい。
(つづく)
書いた人/小林麻衣子
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。