農業を通じて、みんなで生きる、みんなが活きるダイバーシティな場所作り。北海道・十勝「ミナイカシ」の挑戦!

北海道に14ある総合振興局、振興局の中で、一番広い面積を誇るのが十勝。農業王国・北海道の中でも十勝エリアは大規模農業が展開され、その食料自給率は2021年には1339%を記録しています(フードバレーとかち推進協議会調べ)。これは400万人以上の食を支えている計算になるそう。十勝エリアだけで約36人なので、十勝が日本最大の食料基地であることが分かります。

「ミナイカシ」の畑には子どももたくさんやって来ます。のびのび楽しそう!

その十勝エリアの幕別町に、2020年に設立された「ミナイカシ」という農業法人があります。多様性を尊重したメンバーが集まり、ダイバーシティな畑で自然栽培を行っています。「ミナイカシ」は、3つの団体が集まって結成。その3団体とは、児童養護施設や少年院出身の若者たちの未来をサポートする「スマイルリング」、十勝で働く外国人が暮らしやすいよう環境を整える「とかちフレンドシップ」、農業インターンを通じて学生の生きる力や出会いを育む「TASUKI合同会社」。皆、それぞれ人との繋がりや絆を大切にしている団体です。それぞれの活動をしながら、週末になるとこの畑に集まります。畑がある場所は、「教育や福祉のために使ってほしい」と町議の石川康弘さんから託された土地。誰もが分け隔てなく繋がり、働くことができる居場所を作ろうという想いはメンバー全員一致していたので、何をしようか話し合い、農業をすることになったそうです。

「ミナイカシ」の代表・山内小百合さん。「さーやんと呼んでください!」と元気いっぱい

この「ミナイカシ」の代表を務めているのが、「さーやん」こと山内小百合さんです。愛知県出身で、6年前に十勝へやってきました。山内さんは、3団体のいずれにも所属はしておらず、TASUKIの代表でもある夫の山内一成さんに「代表やってみない?」と声をかけられ、代表に。「結果として良かったと思っていますが、最初は話の流れでやることになったという感じ」と笑います。「代表という名前に戸惑い、何をすればいいのか分からなかったときもありますが、メンバーの1人が『無理にみんなをまとめようとしなくていい』と言ってくれたんです。それからはみんなで共に活動を進めている感じです」。誰かが強い理想やエゴを押し付けることなく、最初の想いを大切にしながら活動を続けているのがよく分かります。できることをできる人がやるという自然な流れができており、話を聞いているだけでメンバーの皆さんの温かさを感じます。

ここにやってくる人たちは老若男女問わず多彩。ほかにはないダイバーシティな畑です

ここの土地はもともと原野。畑にするための開墾からスタートしました。「とはいえ、農業に関してはみんなド素人。自然栽培のレジェンド、帯広の『やぶ田ファーム』の薮田秀行さんに農業指導をお願いしています」。薮田さんは、出し惜しみすることなく、自身の経験から得たものをすべてミナイカシのメンバーに伝えてくれるそう。さらに収穫できた作物の加工品作りにも詳しく、あらゆる面からミナイカシを支えてくれています。「薮田さんはもちろん、近隣の方などたくさんの方に支えられています」と山内さん。

畑仕事のあとのご飯。みんなで食べるご飯はおいしい!

ミナイカシの畑にやって来るのは、少年院を出た若者だったり、親子連れだったり、新規就農希望者だったりと本当にさまざま。大地の中で風を感じ、土に触れることで、みなリラックスし、あるがままの自分を解放しているそう。また、必ず賄いを出すことにしていて、皆と畑でご飯を食べるというのもミナイカシの特徴。「最初は若者たちが集まる場所と思っていましたが、今は親子連れの方もたくさんいらしています。目の不自由な方や高齢の方もいらっしゃいます。いつの間にかいろいろな人が集まるようになり、共に農作業をしたり、ご飯を食べたりすることで、世代や育った環境、肩書きなどは一切関係なく、たくさんの人が交わり合い、違いを受け入れ、繋がり合う場所になっているなと実感します。みんなを生かす、でミナイカシ。誰かと比較する必要もない、自分を押し殺す必要もない、それぞれの持つ素晴らしい可能性を畑で感じてもらいたいです」と山内さん。Facebookに綴られている想いには、「みんなで生きる場所。みんなが活きる場所。みんなの想いが詰まった野菜をつくり活かす場所」と書かれています。「自然栽培を経験させてもらって、人だけでなく、この畑の菌も作物もそれぞれが活かしあっていると思うようになりました。すべてが共に生きていると感じています」とも話します。

農業に関心を持つ女子大生たちも畑にやって来ます

初年度はニンニクを植えたものの、寒冷地品種でなかったために失敗。翌年は寒冷地品種のニンニクやカボチャを植え、今年は大豆や麦を中心に作付け。「少しずつ畑として機能していますが、この場所を継続させ、行き場がない若者たちの働く場所にしていきたいとも考えているので、収益をあげていかなければなりません」と山内さん。野菜や加工品販売も行っていますが、若者の行き場に関しては待ったなしの状況で、なかなか収益が追いつけずにいます。そこで、さらなる畑の開墾や冬場の加工品作りの施設整備などに必要な資金を集めるため、現在クラファンを実施中。「クラファンはいろいろな方の意見や想いを知るきっかけにもなりましたし、ミナイカシの現状を客観的に見られる良い機会になりました」と話します。

もうすぐ産休に入るさーやん。妊婦さんですが、積極的に畑作業にも参加

畑の場所を託してくれた石川さんや、惜しみなく農業技術を伝えてくえる薮田さんらから引き継いだバトンを、きちんと未来に繋いでいきたいと話す山内さん。現在妊娠中で、10月には産休に入ります。未来の担い手の一人となる山内さんの赤ちゃんも、来年にはミナイカシの仲間として畑に参加することでしょう。自然な流れで形ができつつあるダイバーシティな畑、これからもきっと柔軟に変容しながら多様な人たちをやさしく包み込んでいくのだろうなと感じました。ミナイカシのような温かくて安全な場所は、これから各地に増えていくかもしれません。そういった意味でもミナイカシの活動は今後も注目していきたいところです。

●ミナイカシのクラファンはこちらから
https://rescuex.jp/project/16794

●ミナイカシHP
https://minaikashi.hp.peraichi.com


書いた人/徳積ナマコ
生活情報紙の編集、広告制作の会社勤めを経て、フリーランスに。ライフスタイル、クラフト、食、アート、映画、ドラマ、アウトドア、農業、観光、健康、スピ…と、興味があるとなんでも首を突っ込む。人の人生ややりたいことの話を聞き、まとめるのも好物で、最近はプロフィールライターとしても活動。https://tokutsumi.com/

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