NORTH ISLAND BEER(ノースアイランドビール)は、地場産の素材を生かしたこだわりの製法と多種多様なラインナップで人気の、北海道を代表するクラフトビールブランドだ。そのブルワリー、SOCブルーイング江別工場に坂口典正代表取締役CEOを訪ね、ビール造りの現場を見せていただきながら話を伺った。 (聞き手 佐藤文子)
■コンセプトは現場が造りたいものを造ること
―工場見学させていただきましたが、若い造り手さんたちの和気あいあいとした自由な雰囲気が印象的でした。
坂口典正社長(以下、坂口)/わが社は“ブルワーみずからが飲みたいと思うビール造り”を大事にしているので、それが表れているのでしょうね。うちは工場長やヘッドブルワーはじめ、みな若手ぞろい。入社してからビール造りを覚えた20代スタッフもいますし、営業担当も30代。それぞれ自由な発想でチャレンジしています。
私はビール造りにはいっさい口出しせずに現場に任せきるというスタンスです。職人からすれば社長にあれこれ指図されるのは嫌だろうし、社長の色で全部決めてしまうとおもしろいものなんてできないですから。
売り方にしても奇抜なアイデアが出てきますよ。ダメ出しはいくらでもできるけど、せっかく若い人が出してくれたアイデアですから、工場長がGOを出したなら「やってごらん」と。何かあったら最終的な責任は「私が持つ」と。当然、失敗することだってあるわけですが、ダメだったら捨てればいい。スタッフも任された責任を感じているから、成功への道筋をきちんとイメージして取り組んでくれています。だから、ほぼ失敗はありませんね。年が若いから無謀だってことではないのです。私の役目はスタッフが良いものをつくれる環境を整えること。ただ、何も言わずに「任せたよ」では良いものは生まれてきませんから、大局を見据えて舵を切るべき局面ではしっかり方向性を示す。それが会社を率いるリーダーとしてやるべきことかなと思っています。
■はじまりは50 ℓのマイクロブルワリー
―2002年に札幌市でブルワリーを設立されて今年で19年だそうですね。
坂口/北区にある小さな工房でピルスナー、ブラウンエール、スタウトの3種類の製造からスタートしました。最初にできたビールの味は忘れられないですね。苦いアップルサイダーみたいな味で、まずくて、とても飲めたものではなかった。「やっぱりサラリーマンのほうが良かったな」なんて思いが頭をよぎったくらい(笑)。
だけど、うちはBOP(小規模醸造システム)だったので毎回50 ℓずつしか造れなかったのが幸いしました。ふつうクラフトビールというと1,000 ℓ単位で製造しますから、できあがったものが失敗でも、経営的に考えたらまるごと捨てるのはもったいない。だから「売れ」という判断になってしまう。けれど、うちは小規模だったので、それをせずに済んだ。「まずかったら捨てよう」と、どんどん改良を重ねていきました。失敗もたくさんするけれど、その失敗を糧に、ものすごいスピードで改良を重ねることができました。その積み重ねで、創業から7年で全国のクラフトビール品評会で金賞を獲れるまでに成長。本当にありがたいことだと思っています。
2009年、拠点を江別市に移し1,000 ℓの仕込釜を導入して工場を大型化。出荷量を増やしてクラフトビールメーカーにシフトしました。江別産小麦「はるゆたか」を使ったバイツェンを造り始めたのもこの頃です。
■北海道ブランドのポテンシャルは無限大
―広島県のご出身だそうですが、道外出身者だからこそ見えてくる北海道の魅力とは?
坂口/北海道のすばらしさは語りつくせないほどありますね。ほんとにいい土地だと思います。自然もあって、美味しいものもたくさんあって、最高の立地。四季がはっきりしているから、季節折々の食べ物の美味しさが際立ちますね。
私には「将来、北海道が日本の中心になる」という持論があります。今後、北海道はますます注目され、北海道へ行きたいという人がさらに増えていくと思っています。世界の富裕層が北海道に注目しています。コロナが落ち着いたら全世界から大勢やって来るようになり、北海道のブランド力はさらに上がっていくと思います。
それから、北海道の人は意識していないかもしれませんが、みんな基本的に人柄がとっても良いのです。ウエルカムの心で受け入れてくれる大らかさがあります。全国から入植者が来た歴史のせいか、「お互いに助け合っていこう」という精神が根っこにあるのかなと思います。何もわからず北海道にやって来た20年前、まったくの外様だった私を、さまざまな会やグループのメンバーが受け入れてくれました。いろいろ教えてくれたり、ビールを買ってくれたりもして、とても可愛がってもらいました。そのおかげで今まで続けてこられました。北海道は自然もすばらしいけれど、道民の人柄もすばらしいですよ。
■クラフトビール×日本料理のマリアージュ
―直営店のビアバーに次いで、2021年7月に日本料理店を出されましたね。
坂口/はい。周囲から「コロナ禍に新店オープンなんてありえない。頭がおかしいんじゃないか」とも言われました。社内でも「なぜ社長はクラフトビールに日本料理を合わせてくるのか意味がわからない」と言われました(笑)。クラフトビールと日本料理というマッチングがピンとこなかったのでしょうね。
でも、これは打つべき一手だと決断。うちの会社の強みは、「すばらしいスタッフが美味しいクラフトビールを造ってくれる」ことに尽きます。美味しいビールと北海道ブランドをクロスさせ、日本が誇る日本料理を道産食材で楽しんでもらえる場をつくったら、インバウンドの方たちに喜んでいただけるのではないかと。多くの店は大手ビール会社のビールしか置いていない。それって少しさみしいじゃないですか。せっかく旅で訪れたなら、地元のクラフトビールを飲み、その土地のものを食べたいとなると思うのです。そういう店がなかったので、それなら自分がつくろうと。
―日本料理に合うお酒といえば日本酒というイメージを持つ人が多いのでは?
坂口/うちの店では最後までビールというお客様が実は多く、最初は樽生をグビッといって、その後はいろいろな風味のクラフトビールや季節限定ビールを料理に合わせて楽しんでいらっしゃいます。そもそもクラフトビールは料理と相性が良いのです。さらにうちは個性豊かなビールをそろえていますから。たとえば、昆布の上に牡蠣を並べた「松前焼」という人気メニューがあるのですが、これには個性的な黒ビール「コリアンダーブラック」がよく合います。日本料理とクラフトビールのマリアージュは一見意外なようですが、自然となじむのです。もちろん、道産酒を含め、美味しい日本酒も取り揃えています(笑)。
■企業としていかに社会に貢献するか
―飲食店をつくることも含め、経営者としての指針、経営理念はどのようにして生まれたのでしょうか。
坂口/多くの経営者は、自社の規模を拡大して売上を増やすことを目標にすると思います。私も最初の頃は、どんどんビールをつくって輸出し、業績を上げ、利益を出せばいいと思っていました。ところが、ご縁があって倫理法人会で学ぶようになってから、その考え方ががらりと変わりました。社会に貢献しているかどうかがまずは大切だと。人として、経営者としての在り方を学べる倫理との出合いがなければ、きっとワンマン経営者になって、とっくに会社をたたんでいたと思います。現在は北海道倫理法人会の会長も務めさせてもらっています。
―具体的にはどのように考え方が変わったのでしょうか。
坂口/社会に貢献することを考えたとき、「世界中の人たちに北海道へ来てもらえるよう、そのきっかけづくりとして役に立てる企業になればいい」と気づいたのです。それからわが社の経営理念は、「私たちは、日本の食文化となり、観光立国の一翼を担います」となりました。直営のビアバーや日本料理店もこうした理念に基づいてつくりました。
これからも100年先を見据えて、ビール関連の原材料生産や、異なるジャンルの飲食店も増やし、北海道が育んだ「NORTH ISLAND」ブランドを、世界に発信していきたいと考えています。
―これからも楽しみですね。今日はありがとうございました。
<企業情報>
NORTH ISLAND BEER ノースアイランドビール
SOCブルーイング株式会社
北海道江別市元町11-5 TEL:011-391-7775
https://northislandbeer.jp
<直営店>
■Beer Bar NORTH ISLAND(ビアバー ノースアイランド)
札幌市中央区南2条西4丁目10-1ラージカントリービル10階 TEL:011-251-8820
月~土 17:30~23:30、日祝 15:00~22:00(祝前日 ~23:30)、42席
※臨時休業、イベント営業などは随時SNSでお知らせ
https://northislandbeer.jp/beeabar
■旬味 粋彩
札幌市中央区南3条西3丁目5-2 都ビル6F TEL:011-215-0323
メール:suisai@northislandbeer.jp
月~土 17:00-23:00(日曜定休)、14席
完全予約制、コースのみ
※予約は前営業日までに電話、メール、SNSで
https://northislandbeer.jp/suisai
聞いた人/佐藤文子
生まれも育ちも北海道。バブル期OLにはじまり雑誌記者、専門書編集者などをへて、現在はホメオパシー療法家&タロットリーダー。ときどきライター。
https://homaya310.wixsite.com/center
この記事へのコメントはありません。