日本人の暮らしに寄り添ってきた藍。藍染め体験を通じて、その奥深さを学ぶ

明治時代、イギリス人科学者が「ジャパン・ブルー」と称した藍染めの藍色。藍染めの原料である植物の藍は、日本では染料としてはもちろん、薬草としても大事にされ、私たちの暮らしに密着したものとして存在していました。

かつては暮らしに欠かせないものだった藍も、合成染料や安価なインド藍などが登場すると少しずつ伝統的な藍染は衰退していきます。藍を栽培する農家も減り、現在、藍栽培を行っているのは、徳島県が7割、北海道が2割強という状況ですが、ここ数年、あらためて藍の素晴らしさを広めようという動きも出ています。

今回は、北海道の道東・浦幌町で行われた「藍尽くし」のイベントに参加し、藍染め体験をしたときの様子を紹介します。

:::::::::::::::::::::::::::::::

全国の藍栽培のうち、2割強が北海道と前述しましたが、実は道内で栽培している農家さんは伊達市にある1軒だけ。伊達で藍栽培が行われるきっかけは、明治時代に徳島から移住してきた集団が、故郷の特産である藍を栽培したのがはじまりと言われています。一時期はかなり作付けされていましたが、明治後半になるとその多くが天候に左右されない大豆などの安定作物へ切り替えていったと言われています。

今回の講師は、その道内唯一の藍の生産地である伊達市で活躍する藍染め師の金子智志さんと愛さんご夫妻。藍で染めた洋服をまとっているお2人を見ながら、「藍」とひと言で言っても濃淡が随分異なるのだということが分かります。

とっても明るい金子夫妻。愛さんのピアスも藍染めの端切れを使って作ったそう

まずは、藍について智士さんが分かりやすく説明してくれました。藍染めに必要なのが「すくも」と呼ばれる染料。この「すくも」とは、藍の葉を乾燥させ、発酵、熟成させたもの。そもそも藍は水に溶けない(不溶性)のですが、発酵させることで可溶化が可能になります。可溶化し、染められる液の状態にする工程を「藍建て」と呼ぶそうです。発酵というキーワードが登場し、食に限らず、日本人の暮らしは発酵文化に支えられてきたのだなと感じます。

乾燥した状態のすくも

ひと通りの説明が終わったら、外に出て実際に藍染めを体験します。参加者それぞれがタオルやTシャツなど染めたいものを持参。金子さんが、伊達から運んできた染液のバケツのふたをあけると、ふわっと独特な香りがします。「その場所の温度や湿度、空気、あとはそこにいる人たちのエネルギーなどで、この香りや液の状態、染まり具合も変わるんです」と金子さん。染液の表面には、泡のようなものが固まって見えます。これは「藍の花」と呼ばれるもので、これがしっかり立っていれば染められるサインだそう。

これが藍の花。テントが赤く、その色が映り込んで赤紫ですが、実際はもっと紺色

金子さんが最初にお手本を見せてくれます。タオルを液の中にそっと沈めていきます。ポイントは静かに沈め、引き上げる際も液の中でできるだけ絞ってからゆっくり引き上げていきます。「2つで1つだった藍の色素は、この液の中でバラバラになっています。なので、液の中に染めたい布を入れてもこれだけでは染まりません。でも、液から引き揚げて、空気に触れさせると、バラバラだった色素がくっついて藍色に染まります」。染液につけるとすぐに繊維に染み込む草木染と、空気に触れてはじめて色が付く藍染の違いはここにあるそう。

金子さんがまずデモを見せてくれます
そーっと染めるものを沈めていきます

早速、各自染めたいものを液の中にそっと沈めていきます。液の中に手を入れていれると、発酵しているためかほんのり温かさを感じます。その温かさがなんとも心地よく、もっと手を入れていたいと思うほどです。

濃い色に染めたい場合は、液に入れ、引き上げ、空気に触れさせるという手順を何度も繰り返すことで濃くなっていきます。濃い色にしたい人は、2度、3度と繰り返していました。生地によっても色の出方は異なるそう。また、ボールや輪ゴムなどを用いて絞りのような模様をつけることもでき、参加者はそれぞれ好きな模様を付けるなど楽しんでいました。

 最後は水洗いし、藍の灰汁を洗い流します。水気を絞ったら、濡れたままビニール袋へ入れて、お片付け。家に帰ってから色止めのために1日~2日、水に浸けておき、そのあと陰干しをし、しばらくクローゼットに入れておくといいと教えてもらい、講座は終了。

液から引き上げ、しばらく空気に触れさせておきます

金子さんは、伊達の伝統文化でもある藍染めをもっと広げていきたいと話します。藍染めには防虫、抗菌などの効果があるとも言われ、昔の人は何度も染め直しながら藍染めの法被やのれんなどを使い続けたとそう。殺虫剤が入った虫よけスプレーを使わずとも、昔ながらの自然のものを用いることで虫を寄せ付けずに済むのなら、そのほうが環境にも人にも優しいですよね。金子さんは、藍と愛を掛けながら藍建てや染めの説明をしてくれましたが、藍は長年日本人の暮らしに寄り添ってきた愛に溢れた植物の一つなのかもしれません。

藍染体験のあとは、イベントの主催者・菅野小織さんから藍の歴史や藍の葉や実の効能効果についての説明がありました。さらに陸別町のタネラボさんによる薬草の話、藍などのハーブティーブレンドワークショップと続き、最後は防虫・防臭効果&浄化力があるという藍の蒸留水をお土産にいただいて終了。本当に藍尽くしで、日本にはこんな素晴らしい植物があるのだなと気付かせてもらった1日でした。

乾燥させた藍の葉を蒸留中

取材・テキスト/徳積ナマコ文章作成室 https://tokutsumi.com/

関連記事

  1. 4月14日(日)札幌で、能登半島震災復興支援の映画上映会を開催

  2. アートな小部屋・春宵一刻 vol.11 山下達郎

  3. LINKな人 vol.9 幡優子さん(株式会社テックサプライ代表取締役)

  4. LINKな人 Vol.12  北見伸子さん(まるたま小屋代表)

  5. スピ系大人男子はめんどくさい vol.1「サスティナブルってなんだ」

  6. 食サミット差し替え

    【食サミット2021】タイムスケジュール

    • 柳田ふみ

    わー♥
    ナチュアクさっぽろではこの春から藍を育て、藍染めや料理のワークショップをする藍畑プロジェクトをやってます☆
    なんてタイムリーな記事!興味深く拝読しました(^^)
    藍、きてますね!!

    • 藍染めのワークショップやるときは、金子夫妻にお願いするといいと思います!

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA