新渡戸稲造(にとべいなぞう)と聞いて、何を思い浮かべますか?
「お札の人」という印象が強い方が大半かもしれませんが、新渡戸は明治から昭和初期に教育者、農政学者、そして国際人として活躍した人物。その功績は国内だけでなく、海外でも高く評価されています。そして、環境、人権、ジェンダー…とさまざまな課題が山積みの昨今、新渡戸のイズムや取り組んできたことが改めて注目されています。
11月3日(木・祝)、札幌で「第5回稲造サミット」が開催されます。稲造とは、もちろん新渡戸稲造のこと。このサミットは、新渡戸稲造とその妻・メリーの功績を再確認するとともに、新渡戸に縁のある地域同士のネットワークを築き、意見を交わし、未来を切り拓いていくきっかけの場となるようにと企画されたもの。第1回は2017年に札幌で行われ、その後は花巻、十和田、盛岡で開催。5回目となる今回、再び札幌で行われることとなりました。
このサミットを主催する一般社団法人「新渡戸稲造と札幌遠友夜学校を考える会」の副理事長を務める秋山孝二さんに、新渡戸のことやサミットがはじまったきっかけ、今回のサミットについてお話を伺いました。
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農政学者、教育者、思想家であった新渡戸稲造
まず、新渡戸稲造がどのような人物だったかを簡単に紹介しましょう。新渡戸は1862年に盛岡で武士の子として生まれました。東京英語学校を経て、1881年(明治14)に札幌農学校(現在の北海道大学)へ。卒業後は東京帝大へ進み、途中でアメリカへ留学し、その途中に札幌農学校助教授としてドイツに留学します。帰国後は札幌農学校の教授として就任し、北海道庁の技師も兼務。その後、台湾総督府技師、京都帝国大学教授、第一高等学校校長、東京帝国大学教授を歴任。また国際連盟事務次長を9年務め、国際知的協力委員会(現ユネスコ)の創設者として国際社会でも活躍しました。
「新渡戸は、農政学者でもあり、教育者でもあり、思想家でもありました。そして、著書を通して世界に『武士道』を広めた人物でもあります。国際平和のために世界を股にかけて活躍し、海外でも彼の功績はいたるところで称えられています」
新渡戸夫妻が立ち上げた遠友夜学校はリベラルアーツの原点
秋山さんたちの「新渡戸稲造と札幌遠友夜学校を考える会」は、2013年に発足。「遠友夜学校」とはどのような学校だったのかも含め、会ができた経緯を教えてもらいました。
「新渡戸は母校の札幌農学校で教鞭を取っていた1894年、メリー夫人とともに学校へ通えない貧しい子どもたちのために私財を投じて『遠友夜学校』を設立。年齢や性別、職業に関係なく、どんな人でも学ぶことができる場所として造られた寺子屋のような場所で、学費は無料。農学校の学生たち、つまり今の北大生が無償で子どもたちに勉強を教えていました。これはボランティアのはじまりだったとも言えます。教える側の農学生たちは、子どもたちから学ぶことのほうが多かったとのちに語っており、リベラルアーツの原点がここにあったと思います」
この遠友夜学校のあった場所は、札幌市の中心部から少し東へ行ったところ(南4東4)。ここ数年再開発が行われている「創成イースト」と呼ばれるエリアです。現在は「新渡戸稲造記念公園」になっており、ブロンズ像や新渡戸の格言が記されたパネルが設置されています。
「遠友夜学校は1944年(昭和19)まで50年間続きました。新渡戸夫妻の想いを引き継いだ人たちによってボランティアで運営し続け、卒業生は1000人以上。第二次世界大戦中、教育方針などが問題視され、やむなく閉校しましたが、50年間ボランティアで続けるというのはすごいことだと思います。その後、この場所には札幌市勤労青少年ホームが建設され、建物内に遠友夜学校の記念室が作られました。しかし、建物の老朽化に伴い解体され、ホームが移設されることになりました。跡地の利用がはっきりしないまま、マンションが建つのでは?という話も出ていました。新渡戸夫妻が立ち上げ、たくさんの人たちが繋いできた学び合いの場とその記憶をなくしてしまっていいのだろうかという思いから、この場所に記念館を建設しようと『新渡戸稲造と札幌遠友夜学校を考える会』を発足。札幌市議会へ敷地貸与を求める陳情書を提出しました」
公聴会では、地域住民との合意形成が条件ということで継続審議に。連合町内会の役員会と何度も意見交換を行うなど、粘り強く活動してきた結果、1年後に陳情書は採択され、記念館建設に向けて活動がスタート。建設に関わる募金を始め、地域住民との対話も行われました。2014年12月、「新渡戸稲造記念公園」という名前の公園が完成。ゆくゆくはこの公園の一角に記念館を建設する予定です。
「記念館が完成したら、新渡戸の功績などをただ紹介するのではなく、人が集う場所にしたいと考えています。人が集まり、何か新しいものを創造し、発信していくことができるような場所。そして、北海道新幹線の札幌延伸に伴い、創成イーストの再開発が進んでいますが、このエリアはもともと産業地域で、ビール工場の跡など歴史的建造物も多数残っており、いろいろな物語もある場所。再開発に合わせ、記念館を拠点にこの辺りの歴史探訪ができるツアーなども計画したいですね」
あらゆる世代の人たちが循環型経済社会について語り合う場に
続けて、サミットを開催することになったきっかけについて伺いました。
「会では、新渡戸についての勉強会や読書会を実施。雑草抜きなど公園の整備も行っています。あるとき、ちょうどスイスを訪れた際、新渡戸が国際連盟事務次長時代に暮らしていた住まいを訪ねました。その建物は現在、高級時計で知られるフランク・ミューラー社の工房として使用されていますが、このとき、国際的視野から見ても新渡戸という人物の重要性を強く感じました。新渡戸は海外から影響を受け、海外に影響も与えた人物であり、昨今はたくさんの方が彼を研究しています。そんな方たちが集まり、交流ができる場としてサミットを開催してはどうかと思ったのです」
秋山さんたちはこのサミットを専門家だけの集まりにするのではなく、遠友夜学校のように一般市民にも開かれたものにしたいと考えました。市民にも広く新渡戸のことを知ってもらい、彼の精神や想いのバトンを次世代へ渡していきたいと話します。
5回目となる今回のサミットのテーマは「新渡戸稲造×SDGs」。循環型経済社会を目指し、未来の北海道について語り合おうというものです。
「新渡戸は、農業振興、平和への取り組み、子どもたちへの教育拡充などを行い、東京女子大の設立に関わるなど女性教育にも力を入れてきました。彼のそうした活動は、現在私たちが抱えているさまざまな課題解決にも通ずるのではないでしょうか。まさにSDGsアクションを彼はやっていたのです。今回のサミットでは、稲造の精神を皆で共有し、2050年ゼロカーボン達成や持続可能な社会システム実現に向けた構想を皆で語り合う場にしたいと考えています」
新渡戸の母校でもある北海道大学はSDGsへの取り組みを積極的に行っており、今回のサミットでもそのことについて発表があります。さらに、札幌の高校生や大学生を交え、地域が元気になる脱炭素社会についてディスカッションを行うほか、会場にいる参加者船員でアイデアを語り合う時間も設けられています。 新渡戸をよく知っている人も、新渡戸のことを詳しく知らなかったという人も、「利他的、慈愛と犠牲、共生」という新渡戸イズムをベースに、北海道のより良い未来について一緒に考えてみませんか。
<第5回稲造サミット・札幌「新渡戸稲造×SDGs みんなでつくろうあたらしい北海道〜循環型経済社会を目指して〜」>
日時/2022年11月3日(木・祝)13:30〜17:00(13:00開場)
場所/札幌プリンスホテル国際館パミール(札幌市中央区南3条西12丁目)
HP/http://nitobe-enyu.org/
参加費/一般2000円・大学生500円・高校生以下無料
申し込み/
名前・電話番号・住所・メールアドレス・参加人数をメールまたはFAXにて申し込み後、参加費を振り込み
メール/sdgshokkaido.miyazawa@gmail.com
FAX/011-723-3610
振込先/
●ゆうちょ銀行 記号:19020 番号:3988211 口座名:遠友夜学校を考える会
●北洋銀行 本店営業部 普通預金 口座番号:6925540 口座名:一般社団法人新渡戸稲造と札幌遠友夜学校を考える会
●北海道銀行 本店営業部 普通預金 口座番号:3275025 口座名:(社)新渡戸稲造と札幌遠友夜学校を考える会
問い合わせ/090-2811-7378(実行委員長:宮澤洋子)
主催/一般社団法人新渡戸稲造と札幌遠友夜学校を考える会
後援(順不同)/北海道・札幌市・札幌市教育委員会・北海道新聞社
協力/NPO法人 SDGs村・北海道
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取材・文/徳積ナマコ
生活情報紙の編集、広告制作の会社勤めを経て、フリーランスに。ライフスタイル、クラフト、食、アート、映画、ドラマ、アウトドア、農業、観光、健康、スピ…と、興味があるとなんでも首を突っ込む。人の人生ややりたいことの話を聞き、まとめるのも好物で、最近はプロフィールライターとしても活動。https://tokutsumi.com/
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