【LINKな人 vol.6】「DXを超えたHXで、人に寄り添ったデジタル化を進める」 時津宝生さん(株式会社MarbleSystems代表取締役社長)

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をこの1、2年でよく耳にするようになりました。2021年9月にデジタル庁が発足し、すべての国民にデジタル化の恩恵が行き渡るようにということで、あらゆる企業や団体、組織にも一気にDXの波がやってきました。ところが、システムを導入すればより効率よく仕事ができるのではと期待したものの、蓋をあけてみるとむしろ費用だけが無駄にかかり、システムがうまく使えないというケースが多々…。その原因は、「人に寄り添わず、現場を知らない人がシステムを作るから」と話すのが、今回のLINKな人・時津宝生(ほうせい)さんです。企業や人に寄り添い、真摯に向き合うオーダーメイドのシステム構築を手がける株式会社MarbleSystemsの代表として各地を飛び回っています。現状のDXの上をいく「HX」(ハッピートランスフォーメーション)を提案している時津さんにお話を伺いました。

ゼロからスタートしたからこそ、ITが苦手な人の気持ちが分かる

時津さんは1983年大阪生まれ。幼少期に長崎へ移り、壱岐で10代を過ごします。子どもの頃からロボット工作などが好きで、頭で考えたことを形にするのが得意だったそうです。

21歳のとき、「初心者でもプログラマーになれる」という求人広告を偶然目にします。パソコンを使って新しい何かを作り上げていく仕事をしてみたいとすぐに応募し、採用されます。もちろんITのことは何も分からないままのスタートでした。いざ入社してみると、周りは経験者やIT関連の勉強をしてきた人ばかり。皆が早々に研修期間を終え、仕事を任されるようになっても時津さんの研修は続いていました。「正直、焦りますよね。でも、絶対に習得しようと思っていたので頑張りました」と時津さん。ITのことが何も分からない状態からのスタートだったこのときの経験があるからこそ、ITやデジタル化が分からない人の気持ちもよく理解できると言い、人に寄り添ったシステム開発の大切さもここでの経験がベースになっていると話します。 プログラマーとしての基礎を築き、時津さんはその能力をどんどん開花させていきます。システム設計、データベース設計、サーバー設計などのスキルも磨き、WEBコンテンツ開発にとって重要なフロントエンドエンジニアにまで成長します。どんなに自身のスキルがアップしても、時津さんの中にある「システムを使う人のことを考える」という姿勢は変わりませんでした。使う人たちの丁寧な聞き取りはもちろん、現場にも足を運び、仕事内容を体験し、開発にあたってきました。当然時間も取られるため、中にはそういう動きをよく思わない人もいたそうですが、「高いお金を払って導入しても、現場の人が使えないようなシステムは意味がない。導入前のほうが良かったなんていう声があがるようなシステムではいけないのです」と話します。

丁寧に向き合ってきた仕事が認められ、イノベーションアワードで世界一に

2014年、時津さんにとって大きな転機が訪れます。時津さんの丁寧な仕事ぶりを見てきた九州の注文住宅メーカーから声がかかり、業務改革に関する基幹システムの開発を任されることになります。「実はすでにベンダーから購入したパッケージのシステムがあり、少しカスタマイズされてはいましたが、正直これは注文住宅の業務内容に合っていないとすぐに分かりました」。会社としてはこのシステムを使って、社員が使いやすくしてほしかったそうでうすが、現場からも300件以上のクレームが上がっており、時津さんは会社にシステム自体の改善を申し出ました。

時津さんはここで思い切った提案をします。その頃はまだ世界的に見ても事例の少なかった超高速開発ツール(ローコードプラットフォーム)を使うことを提言。ローコードを用いるメリットは、従来の10倍の速度でのシステム開発が可能であり、複雑なコードも必要がないという点。さまざまな変化にも柔軟に対応ができ、しかも低コストであるのも魅力でした。「その頃、ローコードを使った事例は日本でも2例ほどしかなく、ましてや基幹システムの事例や前例は世界でもありませんでした」。

周囲からも心配されましたが、プログラマーとしての知見から私には大丈夫という確信がありました。このときも、全社員にヒヤリングをし、人、モノ、帳票の流れを全て把握した上でシステム開発を行いました」。

その後も企業の基幹システムの構築などを手がけ、着実に実績を伸ばしていった時津さん。2018年には、「イノベーションアワード」で世界一の称号を手にします。イノベーションアワードとは、世界52か国、1000社を超える企業の中から、最も革新的なシステムを開発し、ビジネスの新しい価値やイノベーションを生みだした組織や人を表彰するというもの。時津さんは「バックオフィストランスフォーメーション」部門で、世界トップに選ばれたのです。「いつか世界に認められるような仕事をしたいと思っていたので、これは何にも代えがたい賞となりました」。

世界一の称号を手にしたイノベーションアワードの表彰会場で
イノベーションアワードの記念盾を手に

デジタル化による真の業務改善を遂行するために独立

翌2019年に独立し、「株式会社MarbleSystems(マーブルシステムズ)」を立ち上げます。マーブルとは大理石のこと。石灰岩に熱や圧力が加わり、強固に変成する大理石のように、デジタル化による業務改善を通じて企業や組織がより成長できるサポートをすることを使命と考えているそう。「今までも現場で使えるシステム開発を行ってきましたが、もっと人に寄り添ったシステム作りに柔軟に取り組みたいと考えました。私たちが加わることで、大理石のような強さや輝きを持った組織が増えることを願っています。デジタル化は業務改善のツールです。DX、DXと周囲が騒ぐから、とりあえず何かシステムを導入してみたものの、改善に至らない、むしろ大変になったという話もよく聞きます。私は、こうした状況を打破し、ムダなコストをかけずとも価値のある働き方ができるシステムを開発し、真の意味での業務改善を提供していきたいのです」。

働く人にとってプラスになる業務改善のデジタル化は効率化や業績アップに繋がります。ただし、プラスに作用するためには、各企業や組織の中に時津さん自身がしっかり入り込み、ヒヤリングするところからスタートとなります。まるでそれは企業や組織の在り方にメスを入れるようなものです。「私が入っていくことを良しとしない組織もあります。しかし、本当の意味での業務改善、本当の意味でのDXを考えているならば、そこはご理解いただき、私を信用していただき、二人三脚で取り組んでいきたいと考えています」。熱心に語る時津さんからは誠実さと内なる情熱が伝わってきます。

地元福岡はもちろん、独立して以来全国の企業から声がかかるように

人の可能性を引き出すための価値のトランスフォーメーション「HX」

そんな時津さんの姿勢に共感、共鳴する企業や組織が少しずつ増え始めています。その一つが札幌にあるビルメンテナンスの会社「テックサプライ」です。時津さんは月に1週間ほど同社に滞在し、社員全員のヒヤリングを行い、ときには現場で仕事を経験し、どのような業務改善とそれに見合ったシステム開発が必要かを考えていきます。今回、テックサプライのヒヤリングなどを通じて見えてきたのが「DXを超えた、HX。ハッピートランスフォーメーション」だと話します。「テックサプライのプロジェクトメンバーで、そもそも何のためのトランスフォーメーションなのかを考えるところから始めたら、テックサプライは社員の幸せを何よりも大切にしている会社だと分かりました。それであれば、社員の幸福度がアップするためのトランスフォーメーションでなければならないという新しい概念が共創されたのです」。さらに、テックサプライのようにHXを開発・提唱し、取り入れる企業が増えれば、世の中はもっと幸福度の高い企業や人であふれるのではないかと考え、テックサプライの社内に「DX/HXシステム開発Lab」なるものを立ち上げました。

時津さんのシステムは、属人化させることなく、誰でも操作できるように考えられており、そこには温もりが感じられます。デジタル化というと、冷たい印象を受ける人もいるかもしれませんが、「システムを使うのは人間です。生命や感情に触れるものがあって当然だと思うのです。だからこそ、私は人に寄り添ったシステム開発を行いたいと考えています」と時津さん。テックサプライはHXですが、ほかではVX(バリュートランスフォーメーション)を打ち立てている企業もあります。「Xの前に各企業の概念を共創して、それを入れればいいと思うのです。横並びのDXではなく、各企業の想いや考えがXの前に入ることで真の改善とより良いシステムが誕生すると考えています」。

時津さんは現在、ベトナムのダナンという町に開発ラボの拠点を作っているそう。「優秀なエンジニアがたくさんいる町です。日本人は概念を作り上げていくのが得意。Xの前に入るものや形作りは日本で行い、実装をベトナムの素晴らしい技術者たちに任せられるようになればいいなと考えています」。さらに、システムを作って納品して終わりではなく、常にシステムは変化していくものであると捉え、各企業や組織に引き継ぎができる人材育成と社内キャリアの開発・循環も行っていきたいと考えているそう。

「すべての人の可能性を引き出し、活かし抜くこと、すべての人に喜びと幸せを感じてもらうこと。それが私の最終的な大きな願いです。今は、私ができること、業務改善のためのシステム開発を通じてそれを達成したいと考えています」。人に寄り添い、温もりを感じられるデジタル化を推進する時津さんの活躍がこれからも楽しみです。

人の可能性を活かし抜きたいと話す時津さん。全国を飛び回る日々です


取材・文/徳積ナマコ
生活情報紙の編集、広告制作の会社勤めを経て、フリーランスに。ライフスタイル、クラフト、食、アート、映画、ドラマ、アウトドア、農業、観光、健康、スピ…と、興味があるとなんでも首を突っ込む。人の人生ややりたいことの話を聞き、まとめるのも好物で、最近はプロフィールライターとしても活動。https://tokutsumi.com/

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