農ライフはじめましたvol.8 北海道移住1周年!本当のスローライフって?(上)

エゾシカ

北海道に移住して3月で1年が経った。

この時期にしてはめずらしく大雪が降った翌日。大きなスーツケースを抱えて新千歳空港に降り立った。春先の東京では見ることはないであろう一面の雪景色に、期待3割、不安7割で胸をいっぱいにさせていた記憶がある。

一年前から比べると、車の運転も上達したし、北海道の地名もかなり読めるようになった。なにより時間の使い方が変わってきた。今回は、北海道に移住してからの変化について考えてみたいと思う。

そもそも、移住したきっかけは「自然に近い暮らしをしたい」という思いがあったからだ。趣味の登山で何度か北海道に来たことがあったのも理由の一つ。夫婦で移住するなら北海道にしよう、となるのは私たちにとって自然な流れだった。

趣味が登山だと人に話すと、よく「なんのために山登りをするのですか?」と聞かれることがある。そんなときは「山頂の景色が素晴らしい」とか「達成感がある」「そこに山があるから」と適当に答えていたのだが、最近になって、ゆっくりと時間をかけて山を登っていく過程そのものが楽しいということに気づいた。

ときには1日8〜12時間歩き続けることもある。登山を全くしたことがない人からすると、ずっと歩き続けるなんて無理!と思うかもしれない。だが、一歩ずつ足を前に出していくだけで、歩き始めたときには遥か遠くに見えた山頂にいつのまにか到達できることが、とても素晴らしく感じるのだ。単純なことだがそれが「生きている」という実感につながるのだと思う。

話はだいぶ逸れてしまったが、移住をして農業を始めようと考えたのも、農作物という生き物を自分の手で育てることで、「生きている」実感を自分のものにしたかったからなのである。

田舎暮らしは本当にスローライフなのか?

近所の公園にやってきたシマエナガ

「田舎暮らし」「移住」「農業」という言葉を並べると、「スローライフ」を連想する人も多いかもしれない。実際、田舎暮らし系の雑誌にはそういったライフスタイルを特集する記事がたくさん載っているし、かの有名な『BRUTUS』も、定期的に農業特集が組まれるほどだ。

しかし、実際にその場で暮らす人間からすると、田舎暮らし=スローライフという等式には疑問を持たざるを得ない。農業を例に挙げるなら、農繁期になれば日の出から日の入り、そして夜まで働かなければならないこともある。農作物の成長は待ってくれないので、休みがない期間も続く。こうした働き方がスローライフか?と言われると素直に首を縦にふることはできない。

ところが農閑期になると、事情は異なってくる。とくに北海道などの雪国では、本当に仕事が「なくなる」のだ。地面が雪に覆われるので、ビニールハウスなどの特殊な環境を除いて、農作物を育てようがない。やることと言えば雪かきくらい。冬に別の仕事を持つ農家もいるが、農繁期で休みなく働いた分、ゆっくりと過ごす人も多いようだ。

雪に閉ざされる期間がとても長いとは頭ではわかっていたことだが、知っているのと、実際に住んでみるのはやはり訳が違った。自分で望んだはずなのに、私はスローすぎる冬の暮らしに苦しめられることになる。

ウィンタースポーツ好きの夫は、大喜びで農閑期を満喫していたが、さほど雪が好きでもない私は、どんよりとした雪国独特の空に、正直うんざりした。

天気が悪ければ、外出を控えなければならない。というより、交通機関がマヒするので、予定通りの行動ができない。幸い道内でも比較的雪が少ない地域に住んでいることもあって、雪かきに悩まされることは少なかったが、天気が悪い日に家でやることがない。これがなによりも堪えた。

一刻も早く農家として独立したい気持ちがあるのに、メロンの栽培ができるのは一年に夏の間だけ。資格の勉強をしたり、在宅ワークをしたりしてみたが、肝心の農業に関することはなにも進まないのだ。

SNSを見れば、都会で忙しく働く友人たちの姿が目に映る。「いったい自分はここでなにをしているのだろう」と落ち込むことも少なくなかった。そう、冬は強制的に「スローライフ」が求められるのである。自分や仕事のペース中心で暮らすことができる都会とは違い、田舎暮らしや農業は、自然のペースに合わせなければならないのだ。

このことに気づくのに1年近くもかかってしまった。

(つづく)

書いた人/小林麻衣子
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。

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