アートな小部屋・春宵一刻 vol.11 山下達郎

夏に聴きたい曲ランキングには必ず上位ランキングする御年69歳、シンガーソングライターの山下達郎さん。このたび、1年ぶりに発売したアルバムが話題になっている。一本、筋の通った職人気質、そんな言葉が似合う人。音作りには定評がありファン層が厚い。これほど長きに渡るヒットメーカーでありながら、ご本人曰く、「売れたい・有名になりたい」と思ったことは一度もなかったそうだ。とにかく食いぶちを絶やさないこと。その一心で当初は何でも仕事は引き受けたそう。特にCMの仕事が多かったらしい。有名な不二家のハートチョコレート。ハウスのフルーチェ。その頃の世代の人は家族中がその歌を諳(そら)んじた。このCM時代の”何でも屋”がその後のアーティスト活動の大きな土台になったと、ご本人が語っている。何でも一人でできないと仕事にならない環境だったから、必然的にできることがどんどん増えていったらしい。

『RIDE ON TIME』『クリスマス・イブ』『あまく危険な香り』…
ついつい口ずさんでしまう名曲ばかり。CM、ドラマの主題歌と、とにかく露出度が多い。

「きっと君は来ない。一人きりのクリスマス・イブ」

曲を聞けばJR東海の深津絵里ちゃんの姿が蘇る(笑)。それほど達郎さんの曲は、あの頃、生活の一部だった。

しかも作詞もご本人。生粋のシンガーソングライターかと思いきや、ご本人はレコードプロデューサーになりたかったらしい。ただただ、好きな音楽を作るために自由度を増やすには売れる曲を作るしかなかったとのこと。その辺りも、まさに職人気質と言わざるを得ない。

達郎さんにはいくつかのこだわりがある。テレビに出ない・本を出さない・武道館コンサートをしない。正直、あのお洒落で軽快な音楽のどこに、こんな泥臭い思想が沈んでいるのだろう。私はとても不思議になった。でも達郎さんのお話を聞き、その理由がわかった。

ご自身は、高校生の頃、政治騒乱に触れドロップアウトした人間だから、永遠のサブカル出身の自負がある。常に生活者としての共同意識と大衆への奉仕のため音楽をやってきた。だからどんなに売れても海外進出なんて考えたことがないし、そんな時間があるならもっと地方の真面目に働いている人のためにライブをしたい。それが自分の役割であり自分の音楽の意義。つまり市井の人々への奉仕こそ自分の音楽をやる意味だと語る。

めちゃくちゃかっこいい!! 思わずギャップ萌えである。
なぜなら

”あなたの思わせぶりな口づけは
耐え切れぬ程の苦しさ
心は暗がりの扉の影で
報われぬ愛の 予感に震える”
                『あまく危険な香り』より

このような艶かしいアンニュイな表現をしながらも、どちらかというとプロレタリア的な哲学者。何のために音楽をやるのか? それを自分に問いかけて続けた音楽生活。「ポップカルチャーとは、大衆への奉仕と生きることへの肯定」。そう言い切る達郎さんが眩しくて素敵すぎる。

現在は何でも自由、選択権もたくさんある。けれど人の心はどんどん閉鎖的で軽くなっているように感じるのは私だけだろうか?

世界も日本も重く痛々しい問題で溢れている。けれど、それに目を向けている人があまりに少ない。しかも、何のために働き、何のために生きるのか?そして何のためのアートなのか?
そんな言葉はすでに死語になりつつあるように思うが…。
もし真夏の夜の夢から目覚めるような時があったなら。ぜひ一度山下達郎さんの曲をお供にしてほしい。間違いなく達郎さんの音楽スタイルが、本当のかっこよさとは何かをあなたに問いかけているはずだから。

書いた人/Masae Kawaminami
夢は、「人生がアートな世界」になること。アートとは感動であり、五感に響くすべてがアートと捉え、それが欠けた人生は無味乾燥だと考える。自他ともに認める無類の本好きで、映画・音楽・舞台への造詣も深い。どんな環境にいても、アートが人の心の拠り所であってほしいと願い、コラムを執筆。北海道在住。

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